福井商、0-5から生まれた全国初得点 裏にあった指揮官のゲキ「このまま終わったら何も残らない」
厳しい試合になった。スコアボードに記された1対5というスコア以上に、相手の力を思い知らされた。しかし、このボードに最後に加わった1点に価値がある。全国高校総体(インターハイ)サッカー男子は16日に2回戦を行い、サッカー競技の開催地である福井県の第2代表として出場した福井商(福井第2)は、1-5で神村学園(鹿児島)に敗れて涙をのんだ。
高校総体サッカー男子、強豪・神村学園に1-5敗戦も価値あるゴール
厳しい試合になった。スコアボードに記された1対5というスコア以上に、相手の力を思い知らされた。しかし、このボードに最後に加わった1点に価値がある。全国高校総体(インターハイ)サッカー男子は16日に2回戦を行い、サッカー競技の開催地である福井県の第2代表として出場した福井商(福井第2)は、1-5で神村学園(鹿児島)に敗れて涙をのんだ。
神村学園は、昨年度の全国高校選手権でベスト16。昨季から主力のU-18日本代表候補のFW福田師王(2年)、U-16日本代表の経験を持つMF大迫塁(2年)を擁する強豪だ。福井商の高木謙治監督は、本来なら前線からプレッシャーをかけていく守備スタイルを変更。流動的にポジションを変える相手に惑わされるのを防ぐため、5バックであらかじめ守備に人数を多く配置してカウンターを狙う戦術を選んだ。
試合序盤、その狙いがピッチの中で具現化しそうな場面はあった。自陣でボールを奪うと、MF大谷太紀(3年)のパスに走り込んだFW中津悠哉(3年)がドリブルシュート。相手GKに防がれたが、この方法で戦えるとチームに勇気を与えるシーンだった。しかし、個々に技術の高い選手がポジションを変えながらパス交換を繰り返す神村学園からボールを奪うのは容易ではなく、次第にシュートを打たれる場面が増えていった。
前半16分にコーナーキックのこぼれ球を決められると、リードを得て緊張感から解放された神村学園に良いようにやられた。前半で4失点。ほかにゴールポストに救われた場面もあり、一方的に押し込まれた。後半も先に点を奪われ、神村学園のFW福田にはハットトリックを許した。しかし、福井商は懸命に前線の中津へボールを渡そうと粘った。高木監督は「前半で4点取られて、あの子らも気持ち的に落ちている部分もありましたが、ハーフタイムで『このまま終わったら何も残らない。4点取られたことは消せないけど、1点返す、2点返すということが今後に必ずつながる。それを残さないと(冬の高校)選手権も、その後もない』と話をして、みんなが最後まで諦めずにやってくれた」とその戦いぶりを称えた。
そして、後半16分、ついにチャンスが実った。MF伊藤慎也(2年)が前線のスペースへパスを送ると、FW中津が相手と競りながらボールへ追いつき、鋭角から豪快な一撃をゴールへ蹴り込んだ。中津は「最初は(スペースへのパスに対して)相手のGKが出てきたけど、それを止めてポジション取りをしたときに、ニアサイドが空いていたので、思い切り蹴りました。得意じゃないです。練習では、ああいう場面で外している。自主練習とかでやるようにはしていたので、今日、結果として出て良かったです」と振り返り、少しだけ笑った。
得点直後、右ひざを痛めて交代。最後まで戦いきれなかった無念さや、大敗の悔しさ、夏の挑戦が終わった辛さもあっただろうが、やってきたことが一つ報われた場面だった。元々、中津が得意としているのはドリブルで、好きな選手はメッシ。豪快なシュートが得意というわけではない。しかし、強豪相手にチャンスが少ないことを覚悟し、すべてのプレーで、一撃を狙い続けたからこそ生まれたビッグプレーだった。
高木監督が「アイツは、練習後も一人でボールを蹴っているような子」と評したエースストライカーが決めた1点の価値は高い。福井商にとっては、全国大会での初得点だった。中津は「応援してくださった人たちへの恩返し――そういうのにもなるかなと思います」と素直に喜んだ。昨冬には湘南ベルマーレの練習に参加。大学に進学予定だが、プロへの憧れを強く持った。大敗を喫したが、チームの、そして自身の夢に確実に一歩前進する意地の1点を奪ってインターハイの挑戦を終えた。1点の価値を高めるのは、今後の努力と躍進。冬の全国高校選手権に向かって再挑戦だ。
(平野 貴也 / Takaya Hirano)