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「Simple is the best」 道を究める弓道家が高校生に伝えたアドバイス

「いろいろやってみて結局、余計なことはしない。これが一番いいんだな、という結論に達した」

 続いて授業は、参加する弓道部員たちとの質疑応答のコーナーへ。『技術』『メンタル』『進路』の3テーマから質問が寄せられた。全国の弓道を愛する高校生からの活発な質問に、増渕さんは穏やかな声音で丁寧に語りかけながら返答した。

 弓道の基本となる「射法八節」には、足踏み、胴造り、弓構え、打起し、引分け、会、離れ、残心という8つの動作があり、これを力むことなく呼吸に合わせながら一つの流れとして完結させた結果、的中が生まれるとされる。だが、矢を的に当てることに気を取られると、射法八節の動作の乱れに繋がり、結局、矢が的に当たらないというジレンマに陥ることもある。増渕さんは、弓道について「Simple is the best」であることが大事だとアドバイス。例えば、打起しから引分け、会と繋がる部分では、弓を持つ弓手と弦を引く右手のどちらかに力が偏ってしまったり、弓を握る手の内を変えてみたりする人が多いが、増渕さんはこう言う。

「両腕をあげたら左右均等に開いていくイメージ。これだけです。今までいろいろ私も試行錯誤して、手の内にしても、右手のとり方にしても、いろいろやってみて結局、余計なことはしない。これが一番いいんだな、という結論にたどり着いたというわけです」

 これを聞いた高校生からは「自分は右手に力を入れたり、離れでつじつまを合わせようとしたりするので、とても参考になりました」と感謝の言葉がこぼれた。すると、増渕さんは改めて基本の大切さを説いた。

「中学生でも高校生でも大学生でもそうですが、基本の動きは、取り掛け、手の内、物見、打起し、引分け、会、離れ。これだけなんですね、動作っていうのは。でも、大会や審査では緊張しますから、手の内や取り掛けも何度も何度もやり直そうとするんですね。そうすると訳が分からなくなって迷ってしまう。それが余計なこと。失敗の原因にもなります」

 また、弓道部の高校生なら誰もが一度は経験したことのある「早気(はやけ)」についても、増渕さんからアドバイスが送られた。会で気が充実し、自然と右手から弦が離れるまで待てず、すぐに矢を放ってしまう状態を早気という。増渕さんは「狙いには4段階あります」と、弓構えで行う物見から始まり、大三、引分け、会での狙いについて説明。そして、こう続けた。

「会というは永遠の引分けです。そのままずっと開いていく。離れの瞬間は多分、皆さんは弓手の手の内を効かせて勢いよく離そうとしている人が多いと思います。実はそうではなく、弓手の手の内は弓の力に負けないように絞れればいい。伸合いとは弓力に負けないで張り合う力。早気の人は気持ちが的に囚われていますから、まずは落ち着いて、体の感覚を感じながら引いて下さい。口割りより下がらないように、右手の手首の後方に筈を感じてほしいんです。そして、離れは弓手ではなく右手で起こるもの。弦が自然と手から抜けていく、これが離れです。どうやって離そうか、残心をどう取ろうか狙っていけば、会は5秒は持てるはずです」

 増渕さんの言葉にじっくり耳を傾ける高校生たちは、それぞれ画面の前で引分けや会の動作を取りながら、熱心に動きを確認していた。

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