「誰でもできることを誰もできないくらいやる」 剣道・内村良一が高校生へ伝えたエール
逆境の今だからこそ「悔しい思いに意味を持たせるのは皆さん自身」
剣道着ではなくスーツで、竹刀ではなく言葉を高校生と交えた内村。その姿勢は誠実そのもの。しっかりと後輩たちの“一打一打”を受け止めていた。講義が質問コーナーの最後の項目「将来」に移ると、参加者から「将来つきたい仕事があるが、本当にこの仕事につきたいのかどうかわからない」と将来への不安を打ち明けられた。内村は「私も小さいころからいろんな夢があった」と不安な気持ちを和らげるようにアドバイスを送った。
「警察官になろうと思ったのは就職試験の直前なんですよね。今はこれになるんだ、って決めなくていいと思うんです。いろんな可能性が皆さんにはあります。一つに決めるのではなくて、いろいろな可能性をもっていいと思います。そのためにはしっかり勉強すること。そして今やっている剣道を一生懸命やること。しっかりアンテナを張っておけば、自分がどこに行けばいいのかおのずと見えてくると思うんですね。
私も大学3年生の時、教員になるか警察官になるか迷っていました。警察官になったのは、学生時代あんまり(剣道の)成績を残せなかったな、もうちょっと勝負の世界で生きていきたいな、という思い。国民を守る仕事につきたい、という思いから(警察官に)なったわけで、どこできっかけがあるかわからないんです。ですので、今は一生懸命勉強して、一生懸命稽古をして、アンテナを張って、一つに決めるのではなくいろんな可能性を見つけていけばいいと思います」
あっという間に過ぎた1時間。新型コロナでインターハイという大目標を失った剣道部員たちだったが、偉大な先輩の言葉に勇気づけられた様子だった。講義の最後に内村は参加した高校生たちへ向けこんなエールを送った。
「高校生の皆さんの生の声を聞けて、私自身本当に勉強になりました。新型コロナウイルスの影響でインターハイが中止となり、今は本当に苦しい思い、悔しい思いをされていると思います。でも、この苦しい思い悔しい思いに意味を持たせるのは皆さん自身なんですよね。この逆境、この苦しい状況に意味を持たせる。これがあったから今があるんだ。そう言えるように、これからの毎日、一歩一歩を頑張ってもらいたいなと思います。そしてみんなで力を合わせてこの困難を乗り切って、今度は実際に会って剣を交える時が来ることを楽しみにしています」
夏を失い、苦しい思いを抱いた剣道部員たちを勇気づけた内村。逆境の時こそ真価が問われる。剣道家らしく背筋をピっと伸ばし、正面から送ったメッセージは、若き剣士たちの背中を押したに違いない。
■オンラインエール授業 「インハイ.tv」と全国高体連がインターハイ全30競技の部活生に向けた「明日へのエールプロジェクト」の一環。アスリート、指導者らが高校生の「いまとこれから」をオンラインで話し合う。授業は「インハイ.tv」で配信され、誰でも視聴できる。
(THE ANSWER編集部・土屋 一平 / Ippei Tsuchiya)