「誰でもできることを誰もできないくらいやる」 剣道・内村良一が高校生へ伝えたエール
剣道上達の一番の近道は「誰でもできることを…」
最初に行われた「技術」に関する質問。1つ1つの質問に対し、身振り手振りを加えながら丁寧に答えていく内村。攻め方のバリエーションを増やす方法や、相手の起こりのとらえ方について説明した。その中で、部活にコーチがいないため、自分で練習メニューを考えているという高校生から、質問が飛んだ。
「高校時代にやって、成長したと感じた稽古は何ですか」と聞かれた内村。一瞬、間をおいて言葉を選びながら「その時の課題によっていろいろあるんですが」と前置きしたうえで、基礎練習の重要性について語り始めた。
「高校時代から今まで続けてきたこと、上達への一番の近道は、素振りだと思います。稽古の時もそうですが、稽古以外の時に隠れて素振りができるのか。努力できるのかが大事になってくると思います。
私の師匠の森島健男先生に、『剣道の修行は平凡なことの繰り返し。誰でもできることを誰もできないくらいやること。これが剣道の修行ですよ』と教わりました。人が見ていないときにどれだけ竹刀が振れるのか。それが一番の近道だと思います」
基本を大切にし、誰よりも稽古に励むこと。遠回りのようで、実はこれが上達への一番の近道だと言う。自身が実践しているからこそ重みのある言葉だ。質問者の高校生も「素振りは家でもできるので、積極的にやっていきたいです」と目を輝かせた。
続いて、質問コーナーは「メンタル」の項目へ。2年生部員からは「自分は、試合前になると緊張していつもの自分の技が出せません。内村さんは試合前どのようにしていますか」と悩みを打ち明けられた。
これに対し、内村は「みんなプレッシャーは嫌なんですよね。でもプレッシャーが実力をフルに発揮するには一番必要な条件だったとしたらどうでしょう」と異なる視点を提供。科学的な根拠を交えながら、「緊張」についてのある“事実”を紹介した。
「人の安静時心拍数というのは、1分間に70前後と言われています。でもこの安静時心拍数の状態では力は発揮できないんですよね。逆に、プレッシャーがきて心臓がどきどき、息がハアハアしている時っていうのは、(心拍数が)150以上になっているんです。これでもうまくいきません。
これを一番実力が発揮できる120~150のところに持ってくる。その方法として呼吸法があります。剣道では稽古の前後に正座して黙想しますよね。呼吸を整えるんです。実際にプレッシャーを感じたら呼吸を落ち着けて、そこ(心拍数120~150)に持ってくる手段を稽古からやっておく。緊張が来たときに『これは実力を発揮するために必要な条件なんだ。誰にでも来ることなんだ』と考えることだけでも、(緊張改善の)第一歩になると思います」
ある程度のプレッシャーを感じていないと実力はフルに発揮できないことを説明した内村。一番実力が発揮できる心拍数120~150という範囲を、「あくまで一般的な数値」と説明しつつ、最も大事なのは「自分で体験して自分でつかむこと」だと言う。「緊張」を取り除きたいものから必要なものへ、考えを転換させる。内村は稽古から「緊張」に対しても準備を怠らない。
しかし毎日の稽古でモチベーションを高く保ち続けることは簡単ではない。高校生から続けて飛んだ「内村さんは長い期間剣道をやっていると思いますが、長くやってると、めんどくさいなとか、やりたくないなと思う日が絶対あると思います。そういう時の気持ちの入れ方ってありますか」という質問に対し、自身の経験を踏まえて具体的なアドバイスを送った。
「私が一番大事にしていることは目標設定です。試合が終わって目標を達成した、目標達成できなかったとしても、次の目標設定を必ずするようにしています。自分がなかなかモチベーションが上がらないなって時って、やっぱり自分がどこに行きたいのか、どうなりたいのか、明確にできていないときなんですよね。これは剣道だけでなく勉強でもそうだと思いますが、しっかりとした目標設定。自分がなりたい姿を設定できれば、モチベーションは上がってくると思います」