「まじめなアスリート」こそ危険な摂食障害 鈴木明子と専門家が考える怖さと原因とは
摂食障害に陥った鈴木さんを救った母の言葉「食べられるものから食べなさい」
鈴木さんの話を受け、須永教授は女性アスリートと摂食障害の現状について解説した。国立スポーツ科学センター(JISS)の調査データを紹介。JISS内にある心療内科を受診した92人のアスリートのうち、摂食障害と診断されたのが13人だったというもの。
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須永「これはかなり多い数だと思います。重要なのは13人のうち、自覚があったのは8人で、5人は無自覚だったこと。その5人はカウンセリングの中で診断された経緯があったといいます。摂食障害には、食べない(拒食)だけではなく、食べ過ぎてしまう(過食)もあります。周りから見れば、『(拒食は)食べればいいじゃん』と思うかもしれませんが、背景に精神的なことも含まれ、単純ではない病気です。特に頑張り屋さん、まじめなアスリートは罹患しやすい。鈴木さんも『成長することが悪』と不安に感じる経験を話しましたが、指導者はそのような考えにつながるような言葉かけは避けてほしいと思います」
話は摂食障害に陥った選手と、その周囲の関係について展開した。参加者から事前に寄せられた「摂食障害の治療と向き合おうと思った時、周囲からどんなサポートがあったのか教えてほしい」という質問に鈴木さんが答えた。
鈴木「私自身はスケートを諦められず、辞める選択肢はありませんでした。医者も親も『スケートを続けることで体重に捉われるなら、辞めた方が楽に生きていける』などと言ってくれたのですが、私はスポーツという目標があるからこそ病気とも向き合って、きちんと治してもう一度、氷の上に戻るんだと覚悟を決めました。スケートを諦めてしまったら、私は何のために病気と向き合えばいいのか、希望が失われるような気がして、頑なに貫きました。目標があることで、なりたい自分が見えて、行動しやすくなったと思います。その時に大きかったのは母の言葉でした。
食べられるものは栄養が多くあるものではなく、野菜とか、たんぱく質といえば豆腐くらい。周りも『もっとお肉もごはんも食べなきゃ』と心配してくれるのですが、母は『いいじゃない、食べられるものがあるなら。食べられるものから食べなさい』と私を否定しないでいてくれた。人と同じものを普通に食べられない自分はダメだと劣等感を持っていました。アスリートは頑張っていないと自分はダメだ、評価してもらないとも思っていましたが、一番近くで見ていた親が私を丸ごと受け止めてくれたことが、自分のことを認めて、前に進もうと思えたきっかけです」
鈴木さんが具体的な治療法にも言及。徐々に食事が取れるようになり、大学にある仙台に戻って再び一人暮らしを始めた当時の出来事を明かした。
鈴木「大学の健康診断の内診をしてくれた方がスポーツ心理学の先生でした。少しお話をする中で、なぜ体重について考えすぎるようになった、親との関係など、自分の気持ちをひも解くことができました。どこか自分のことが嫌いで、受け止め切れない部分がいっぱいありました。良い子じゃないと、完璧じゃないといけないと思っていたものを緩めていく作業。スポーツができる体になっているか、骨も含め、ちゃんと調べました。その上で栄養士の方と相談し、自分が食べられる物の中でどんな栄養素が足りないかを聞き、ちょっとずつ食べることや栄養に興味を持てるようになりました」