人工透析の夫に腎臓の1つを提供 選手生命に黄信号も「片腎レギンスアスリート」が諦めないワケ
複雑な心境に、言葉が詰まった。2月に開催されたボディコンテストの登竜門「マッスルゲート」神奈川大会。ウーマンズレギンス部門158センチ以下級で優勝し、日本大会への出場権を得た山本ひろこだったが、彼女には素直に喜べない理由があった。人工透析療法を受けていた夫のために腎臓を片方提供。「普通の生活ができると聞いていたのに……」。大会の直前に選手生命にかかわる事実を医師から告げられ、「いつまで続けられるか分からない」と不安を抱えながらステージに立った。それでも「自分の体で実証実験」に臨む理由を聞いた。
各コンテストで輝く選手たちを紹介「ボディコンテスト名鑑#17 山本ひろこ」
複雑な心境に、言葉が詰まった。2月に開催されたボディコンテストの登竜門「マッスルゲート」神奈川大会。ウーマンズレギンス部門158センチ以下級で優勝し、日本大会への出場権を得た山本ひろこだったが、彼女には素直に喜べない理由があった。人工透析療法を受けていた夫のために腎臓を片方提供。「普通の生活ができると聞いていたのに……」。大会の直前に選手生命にかかわる事実を医師から告げられ、「いつまで続けられるか分からない」と不安を抱えながらステージに立った。それでも「自分の体で実証実験」に臨む理由を聞いた。
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一番の趣味をやめなくてはいけないかもしれない。山本にとって突然の現実が突きつけられたのは、大会のわずか1週間前のこと。定期検診で腎臓の数値が悪化していることが発覚。「必要以上のタンパク質を摂ると腎臓に負荷がかかる」と、トレーニーにとって最も重要といえる栄養素の制限を医師から助言された。
「タンパク質を摂らないと筋肉つかないじゃん、って。ショックで、どういうこと? どうすればいいんだろう? と思いながら臨んだ大会でした。筋トレが唯一というか、一番の趣味なのに。こんなことある? 悔しいというか、切ないというか」。コンテスト直後、回想する山本の目は潤んでいた。
自営業をしながら小学6年生、5年生、3年生の3姉妹を育てる46歳。約1年前、透析治療を5年ほど続けていた夫のために、2つある腎臓の1つを提供した。毎日、頭痛や腹痛に悩まされる夫の姿に「腎臓移植して、これが治るんだったら」と決断。おかげで夫は人工透析を“卒業”し、現在は薬を服用するだけでいいという。
腎臓が1つなくても「普通の生活ができる」。そう聞いていたが、思わぬ落とし穴が待っていた。それが、腎臓の数値の悪化だった。
「筋トレを頑張ってプロテインを毎日飲んでいると(医師に)話したら『そのせいだ』と」。大会直前の宣告に、動揺が隠せなかった。「ドナーになったことは後悔していませんが、“普通の生活”ができると聞いていたのに“普通の生活”じゃないのかと。知っていたら移植しなかったかと言われるとそうは言いませんが、悔しいです」