五輪連覇の阿部一二三に起こった不測の事態 「次やったらやばい」止血したドクターが語る緊迫の2分間
頭によぎった阿部VS丸山の代表決定戦「その時に近い緊張感があった」
普段、筑波大学附属病院に勤務する井汲さんは、自身も柔道選手として活躍。中学で全国大会に出場し、高校ではインターハイ出場。講道館柔道四段の実力の持ち主だ。筑波大医学部に進学し、3年生の時、井汲さんの試合を見た全日本柔道連盟の医科学委員会の先生から声をかけられたのが代表に関わるきっかけになった。
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阿部とは出会って10年以上になる。
「2013年の世界カデという18歳未満の柔道の世界大会が、自分が海外の日本代表チームに帯同した初めての大会なんですけど、実はその時に阿部選手が出ていたんですね。まだ高校1年生でした」
その後、節目の大会でもドクターとして間近で試合を見届けてきた。忘れられないのは、2020年12月に行われた東京五輪代表を懸けた丸山城志郎との大一番。阿部は鼻と爪から出血し、丸山の柔道着が返り血で染まるほどだった。
「止血は僕がやったんですけど、その時も鼻血を2回止血して、次やったらもう終わっちゃうよみたいな状況でドキドキした。その時のフラッシュバックじゃないですけれども、後々考えると、その時に近い緊張感は今回もあったなというふうには思いました」
長いキャリアの中で3回の出血で選手を棄権させたことはない。鼻血に限らず、様々な出血や怪我を想定し、チームの中で情報を共有している。
「目の上が切れたり、胸元がすれて出血したり、いろんな状況があるのですが、チームドクターの中で、こういう出血の部位にはこういうテーピングの巻き方がいいんじゃないかっていうような議論は繰り返しして、ブラッシュアップに努めてはおります」
柔道経験があり、競技愛も深い井汲さんの存在は、柔道代表からも絶大な信頼を寄せられている。
準々決勝で勝利した阿部は、畳を降りると「投げてきましたよ!」と報告した。井汲さんはアップ会場で再度、止血の状態を確認し、次の試合に備えた。
「阿部選手が負けるとしたら、もうアクシデントしかないので。アクシデントってこういうことだなっていうのがあったので、焦りました」
阿部の快挙の裏にあった、医師のファインプレー。今後も可能な限り、貢献していきたいという気持ちを明かす。「パリが終わったばかりで、代表チームに関わっていくのかどうかは確定していないですが、引き続き、選手がより良いパフォーマンスを出せるようなメディカルサポート体制を日本代表チームの一員として、チームドクターみんなで作っていきたいなっていうふうに考えております」と締めくくった。
(THE ANSWER編集部 / クロスメディアチーム)