五輪連覇の阿部一二三に起こった不測の事態 「次やったらやばい」止血したドクターが語る緊迫の2分間
「投げれそうなら決めてきます」畳に戻る前に“一本”の誓い
「僕が鼻を圧迫止血しつつ、(血が)垂れてくるのを拭いたり顔を拭いたりしている間に、もう1人のドクターに『止血剤を詰めたい』と言いました。そのドクターが止血剤を出してくれ、『これでいいか』と言ってくれたので、『じゃあ、勢いが弱まったらそれを鼻に詰めてくれ』と片言の英語とジェスチャーでお願いしました。僕が圧迫を離して、出血の勢いが収まっていることを確認したところで鼻の奥に止血剤を詰めてもらって、さらにまた圧迫止血を行い、その後に(ティッシュの)詰め物をさらにして、という形の対応をしました。本人に詰め具合の最後の確認だけはしっかりしてもらって、もう1回、畳に送り出しました」
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その時、阿部が口にした言葉を井汲さんは鮮明に覚えている。
「『早めに決めてきます。投げれそうなら決めてきます』みたいなことを言っていました。僕に言うというよりも、自分に言い聞かせたんだと思うんですよね。そこで気持ちを切らさずに、畳に戻ったらどういうふうに戦っていくかを止血中にずっとシミュレートしていたんだと思います」
畳に戻った阿部はその言葉通り、試合再開直後に大内刈りを決めて合わせ技一本。準決勝進出を決めた。
その瞬間、ネット上には「いや、まじでハラハラした」「まさかの敵が鼻血とは」「3回流血で棄権扱いって無慈悲すぎひん?」「鼻血をどうやって止血したのだろうか?」「治療のスキルもめちゃくちゃ重要なんだな」などの声があふれた。
井汲さんは胸をなでおろした。
「やっぱり阿部選手は凄いなって思いましたね。僕としても内心また寝技とかでガチャガチャやられる前にしっかり決めてくれって願って畳に送り出して、その後最初の攻防の中で大内刈りですからね。本当に安心しました」