悲しみを乗り越えて― フェデラーをレジェンドに変えた“若き日の自分”との決別
指導を受けたカーター氏が他界、悲しみを乗り越えて翌年にウィンブルドン初制覇
ロウ氏は「あんなエネルギーで無茶をする人間を私は2度と見ることはないだろう」と少年フェデラーを評したが、生まれ変わるきっかけは突然やってきた。
フェデラーが21歳となった2002年。9歳から18歳まで指導を受けたオーストラリア人コーチのピーター・カーター氏が交通事故に遭い、37歳の若さで他界したのだ。
「フェデラーは打ちひしがれた。これがフェデラーを信じられないほど急速に成長させた。なぜなら、それまで彼は死について考えることがなかったんだ。彼は一度立ち止まった。悲嘆に対応するために、長い時間を要したんだ。ともに旅をし、毎日顔をあわせて自分が熟知する大切な人間だったからね。フェデラーにとっては大きな痛手になったが、悲しみを乗り越えることでフェデラーは少年から大人になったんだ」
ロウ氏はフェデラーが「少年」から「大人」になった過程について、このように証言している。
苦楽をともにした恩師との別れ――。それはラケット破壊などの“悪童”の自分との決別でもあった。そして、カーター氏の事故から1年後、フェデラーはウィンブルドンを初めて制し、グランドスラム初勝利を手にしている。
若き日に味わった悲しみとそれを乗り越えた自信。その2つがレジェンドに上り詰めた根源にあり、今もフェデラーを支えているのは間違いないだろう。
【了】
ジ・アンサー編集部●文 text by The Answer