日本の勝利至上主義、トーナメント制、甲子園 ラグビー世界的名将エディーが全てを語る【THE ANSWER Best of 2021】
日本で釘付けになった「甲子園」に思うこと、日常的に採用したいリーグ戦の意義
日本で代表的なトーナメント大会と言えば、甲子園でしょうか。私も日本にいる時にテレビ観戦したことがあります。高校生があれだけ一生懸命にプレーする姿に、目が釘付けになってしまいました。多くのファンが夢中になるのも無理はない。ああいう伝統的な大会が存在することは素晴らしいことだと思います。
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もちろん、大会の運営方針や選手の健康状態には細心の注意を払わなければなりませんが、高校最後の年に全国各地から世代のトップが一堂に会するトーナメントは、選手たちにとって大きな意味を持つのではないかと思います。ただ、甲子園に至るまでの過程は、地域でリーグ戦などを行い、チーム全員が試合経験を積むことが大切でしょう。
例えば、ラグビーの場合、60人の部員がいるチームがトーナメント初戦で負けてしまえば、ベンチ入りする25人が公式戦の経験を積むだけで終わってしまいます。これはおかしな話。60人の部員全員が試合経験を積めるような状況を作らなければなりません。そのためには、地域の実力が拮抗したチームでリーグ戦を行うことが最善策だと思います。
オーストラリアには州単位のトーナメントがありますし、それぞれの覇者同士が対決するトーナメントもあります。でも、一般的なのは地域で開催されるリーグ戦です。10週にわたるリーグ戦であれば、多くの選手に出場機会が回ってきますし、勝敗から学ぶチャンスも広がります。
東海大では、選手たちに試合経験を積みながら、チーム内での役割を理解し、個人としてよりもチームとして行動する強さを知ってほしいと伝えていました。先発出場できる時もあれば、ベンチスタートやベンチ外の時もある。その時、自分に与えられた役割を理解して、チームの勝利に向けて全力を尽くす。こういうラグビーの精神は、社会でも大いに役立つものでしょう。
私が指導者として勝敗以上に喜びを感じることが2つあります。1つ目は、自分が指揮を執るチームが、まるでオーケストラのように一体となった動きを見せた時です。チーム全員が心を一つにプレーする様は本当に美しいものです。もう一つは選手の成長が見えた時です。ラグビー選手としてはもちろん、一人の人間として成長が垣間見えた時は本当にうれしい。指導者冥利に尽きるというものです。
私はできることなら、国全体として指導者の育成プログラムを作るべきだと思います。国が主導する形で各団体や連盟が協力しあい、よりよいコーチを生む努力をする。指導者は時代の変化を感じ取りながら学ぶ姿勢を失ってはいけません。少なくとも、ジュニア期の子どもたちを指導するコーチたちには、勝利が全てではないこと、子どもたちから楽しさを奪わないことは意識してもらいたいものです。
■エディー・ジョーンズ / THE ANSWERスペシャリスト、ラグビー指導者
1960年1月30日生まれ。豪州出身。現役時代はフッカーを務め、ニューサウスウェールズ州代表。92年引退。教職を経て、96年に東海大コーチになり、指導者の道へ。スーパーラグビーのブランビーズなどを経て、01年豪州代表HC就任。03年W杯準優勝。イングランドのサラセンズ、日本のサントリーなどを経て、12年日本代表HC就任。15年W杯は「ブライトンの奇跡」と呼ばれる南アフリカ戦勝利を達成した。同年、イングランド代表HCに就任し、19年W杯は自身2度目の準優勝。近著に「プレッシャーの力」(ワニブックス)。
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)