スポーツで強くなるのに礼節は必要か ジュニア世代の疑問に柔道・大野将平が出す答え
「負けることを想定する練習」から始まる柔道の次世代に伝えたい魅力
東京五輪ではスケートボードなど、ストリート発のスポーツも注目された。スポーツ界に新しい潮流が訪れる中で、柔道という伝統ある競技がさらに発展していくためにどうあるべきか。
他競技もよく見る大野は、特に「1対1の戦いが好き」という通り、相撲やボクシングなどに惹かれる。「自分が投影しやすく、心情が分かってしまうので」。個人競技の面白さについて「勝ったら自分のおかげだし、負けたら自分のせい。“おかげ”と“せい”という潔さ」と表現する。
個人競技の代表的な存在の一つである柔道について、その魅力をこう考える。
「柔道は過酷な競技で組み合っていて痛いし、投げられて痛いし、耳も潰れるし。正直、得をすることなんてないんです。柔道は最初にやる練習が受け身。試合で受け身を取るのはどういう時かを考えるというと、負ける時です。
つまり負けることを想定する練習から始まる競技。しかも受け身は面倒くさくて楽しくもない。サッカーやバスケはシュートから始まり、楽しさが先に来るもの。そういう面ではマイナスの前提に立つ面白い競技だと思います」
「我慢」という言葉を好む大野は「でも、それは人生と一緒。生きていれば、うまくいかないこともいっぱいある。柔道に飛び込んで我慢して継続できることは、どんな社会人になっても我慢し、継続できる証拠だと思います」と力説した。
「今は世の中の考え方が変わり、教育とは何かと改めて考え直さなければいけない時代に柔道という過酷な競技がまだ存在し、柔道人口が減りつつある中でも、まだ武道を志す子供たちがいてくれることを嬉しく思います。
そういう子供たちが、『つらい』『苦しい』ばかりの稽古の中で、我々が戦い、あんな選手になりたい、あんな風に投げたい、金メダルを獲りたいと、一つの光となり、彼らを照らせるような選手にならないといけない」
礼儀・礼節と共に成り立つ「柔道」を誰よりも追求してきた大野。その道の先頭から、大きな背中を次世代に示し、競技の発展を願っている。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)