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早く競技を選ばないと「遅れが怖すぎる」 米国のマルチスポーツ、子どもたちの重圧と育成のジレンマ

ボー・ジャクソンの同僚と最強投手スキーンズの言葉から探る

 アメリカのスポーツ史上最強のマルチスポーツアスリートといえば、オリンピックの陸上競技で金メダルを獲得し、プロ野球、プロアメフトでも活躍したジム・ソープであり、そして、史上初めて、MLBのオールスターとNFLのプロボウルに出場したボー・ジャクソンだろう。2人の伝記などを読むと、学校が大きな役割を果たしていて、学校にいることで、自然とシーズンごとにスポーツに触れていたのがわかる。

 ジム・ソープの実際のプレーを見たことのある人は、今ではほとんどいないだろうが、1980年代に活躍したボー・ジャクソンの現役時代を覚えている人はまだまだ多い。MLBロイヤルズのテレビ解説者で、通算304セーブを挙げたジェフ・モンゴメリー氏は、ジャクソンのチームメートで数々の驚異的パフォーマンスの瞬間に居合わせたという。

 モンゴメリー氏に、肩も強かったボー・ジャクソンならば、大谷のような二刀流ができたのではないかと聞いた。モンゴメリー氏は「ボーは野球のプレー経験が限られており、まだ完成した選手ではなかった。大谷は日本でもレベルの高い相手と対戦し、大きく成長したはずだ。人生の大半を通じてやってこなければ(投打の二刀流は)できるようにはならない。総合的な(野球)選手として見れば、大谷は私がこれまで見た中で最高だろう」と分析した。

 つまり、最強のマルチスポーツ選手はボー・ジャクソンだが、最強の総合的な野球選手という点では大谷翔平ということだ。最も恵まれた素材を持って生まれたアスリートでも、メジャーリーグという最高峰レベルで投打を極めるには、スキル、トレーニング、ゲーム経験を積むことが必要になる。高校時代には野球、アメリカンフットボールのほかに、陸上もやっていたボー・ジャクソンは、それをするだけの時間を野球に費やしていなかった。

 よく知られている通り、ジャクソンは、アメリカンフットボールで大けがをして、それがアスリートとしての競技生命を短くしてしまった。大けがのあとに、メジャーリーガーとしてプレーしたエンゼルスではけがの箇所に負担がかからないのではという理由でピッチャー転向案もあったという。しかし、そこからピッチャーを目指したとしても、スキルや経験が足りなかったかもしれない。ピッチングは、ボールを投げることだけではないからだ。

 現在、メジャーリーグで防御率トップのポール・スキーンズも大学時代までは投打二刀流で鳴らした。子ども時代に他のスポーツもやっていたのかと聞いたところ「野球だけ」との回答だった。しかし、メジャーに入るまで投打二刀流をやっていたことは現在のピッチングにも生きているという。「もちろん、メジャーと大学野球のレベルは大きく違うけれど、バッターに対してどのようにボールが向かっていくのかを打者の視点で理解することができる。これはとても大きなことだ」とした。

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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