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早く競技を選ばないと「遅れが怖すぎる」 米国のマルチスポーツ、子どもたちの重圧と育成のジレンマ

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「複数種目のマルチアスリートと投打二刀流」。

投打二刀流で活躍するドジャースの大谷翔平【写真:ロイター】
投打二刀流で活躍するドジャースの大谷翔平【写真:ロイター】

「Sports From USA」――今回は「複数種目のマルチアスリートと投打二刀流」

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「複数種目のマルチアスリートと投打二刀流」。

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 アメリカではスポーツはシーズン制で行われており、子どもたちはシーズンごとに種目を変えるので、複数種目で活躍するマルチスポーツ選手が誕生する。これは、事実ではあるが、そうではない現実もある。

 2024年に発表されたアスペン研究所の調査によると、6歳から17歳までの子どもを対象に、何種目のスポーツをしているかと聞いたところ、1.63であった。また、2つの高校の運動部員を対象にした調査では、ひとつの種目に特化している割合は36.4%で、ひとつに絞っていないと答えた割合は34.8%だった。マルチスポーツをしている子どももいるが、ひとつに絞っている子どもも同じくらいいる、と言っていいかもしれない。ひとつの種目に絞る傾向はオフシーズンにもトレーニングの機会が提供されるようになった1980年代半ばから始まった。

 長期的な育成の観点からみれば、複数の種目に親しむほうがよりよいアスリートになれると言われている。それなのに、なぜ、アメリカではひとつの種目に絞る子どもが少なくないのか。NFLのパンサーズなどで14年にわたりプレーしたグレッグ・オルセンが米メディアの「ジ・アスレチック」に語っていた言葉がヒントを与えてくれる。彼は引退後、ユーススポーツの支援組織を立ち上げ、自分の子どものコーチもしている。

「子どもたちも家族も、早い段階でスポーツを選ばないと遅れを取ると感じる、非常に強いプレッシャーにさらされていると思います。子どもたちが感じるのは、シーズンごとに新しいスポーツに入っていくのは大変で、そのスポーツを少なくとも12か月通してやっている子どもたちと競うのは非常に難しいということなのです」

「これが『もういいや、バスケットボールだけに集中しよう。他の子に遅れを取るのが怖すぎる』という選択を促しているのです。私が育った時代、バスケットボールシーズンが終わると、ほぼ全員が一緒に体育館を出て野球場へ向かいました。だから、自分がそのスポーツから離れている間に他の子たちが何をしているか心配する必要はなかったのです」

 いずれは、マルチスポーツ経験のある子どものほうがよりよいアスリートになれるといわれても、ひとつの種目を3か月しかやっていない子どもと、年間を通じてやっている子どもとでは、スキルの上達や種目の理解に差がつき、短期的にはひとつに絞ったほうが優位に立てる。たとえば「十代後半にはマルチスポーツアスリートのほうが伸びている」「けがを避けられる」「プロのアスリートになるならば、いろいろな動きの経験をするべき」。しかし、高校の終わりごろにはよりよいアスリートになるといわれても、まず、高校の運動部のトライアウトに受からなければ、競技スポーツをする環境が得られないという事情もあるからだ。

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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