異例の「金メダリスト市役所職員」誕生 朝練が怖くて眠れぬ夜も…180度変わった今が「なんか不思議」――レスリング・土性沙羅
ふとした瞬間に騒ぐアスリートの血
変わったのは、食生活を気にするようになったこと。意外かもしれないが、現役時代は摂生した記憶がないという。
「私の階級は減量がなかったので、好きなように食べていました。お菓子も食べていました(笑)。当時は運動量がすごかったので、たくさん食べても太ることはなかったんです。でも運動する機会が減ったので、食事に気をつけています。牛肉や豚肉ではなく、鶏むね肉ばかり食べています。もうアスリートじゃないのに(苦笑)」
引退から1年が経った今年4月からはジムに通い始めた。通常業務終了後の夕方はジムが混むため、朝4時から誰もいないジムで黙々と汗を流す。運動不足解消とダイエット目的で始めたのに、だんだんヒートアップするのが性分というものだろう。
「痩せるために全身の部位を日替わりで鍛えていました。背中、足、肩と曜日で分けて。そうしたら、しばらくして母に『背中が広くなったよ』と言われました(笑)。軽いウェイトでやっていたら効いているのか疑問に感じて、どんどん重くしちゃったんです。だから有酸素運動をやめて、ランニングに切り替えました。毎朝5キロを目標にして外で走って、1か月100キロを目指しています。現役時代は緊張の毎日で、高校生の時は朝練が怖くて眠れない夜もあったのに、今はしっかり目が覚めて気持ち良く汗を流している。なんか不思議ですよね」
公務員なのに、ふとした瞬間にアスリートの血が騒いでしまう。そんな金メダリストの市役所職員が松阪市にいる。
(続く)
■土性沙羅 / Sara Dosho
1994年10月17日生まれ、三重県出身。小学2年生の時に吉田沙保里の父・栄勝氏の一志ジュニア教室でレスリングを始める。すぐに頭角を現すと高校、大学で何度も全国制覇を経験。21歳の時に2016年リオデジャネイロ五輪69キロ級の代表に選ばれると、五輪初出場で金メダルを獲得した。その後も17年の世界選手権やアジア選手権で優勝するなど結果を残し、21年東京五輪にも出場したが3位決定戦で敗れてメダル獲得ならず。23年3月に現役引退。故郷の三重県松阪市へ戻り市役所職員に転身した。
(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)