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異例の「金メダリスト市役所職員」誕生 朝練が怖くて眠れぬ夜も…180度変わった今が「なんか不思議」――レスリング・土性沙羅

リオ五輪で金メダルを獲得した土性さん(左から2人目)【写真:Getty Images】
リオ五輪で金メダルを獲得した土性さん(左から2人目)【写真:Getty Images】

金メダル前年に負傷「私のレスリングスタイルがガラッと変わった」

 若くして世界の頂点に立った。連覇が期待された東京五輪では3位決定戦で敗れて、メダルに手が届かなかった。そして2023年3月30日に現役引退を発表。やり切ったという思いもあり、セカンドキャリアは別世界へ飛び込んだ。

――後悔や心残りがあるとすれば?

 投げかけた質問に少しだけ寂しそうな表情を浮かべ、言った。

「怪我がなかったらな……。怪我をしなければ、今もレスリングを続けられていたかもしれない」

 それは金メダル獲得以前の、リオ五輪出場を懸けた2015年全日本選手権での負傷だった。リードしている状況で仕掛けたタックルが返されてしまい、相手に逆転を許してしまう。ラスト30秒ほどでポイントを取らなければ、という焦りから強引に仕掛けて左肩を亜脱臼した。

 その後、ポイントを奪って勝利することができた。だが、代償はあまりにも大きかった。約1年後の金メダル獲得時も左肩は万全の状態ではなく、患部周辺を筋肉で固めて臨んだ大会だったと明かす。

「4-0のところで仕掛けたタックルをしっかりと決められていれば、そのあと無理やり取りにいかなくてもよかった。そうしたら、あの怪我もなかったのかなという思いはずっとあります。もっとちゃんとタックルの練習をやって、試合で決めていれば、という心残りです」

 月に1度は肩が外れてしまうのでは、思い切った戦いは不可能だ。プレースタイルの変化を迫られ、以降は我慢と忍耐のレスリングを余儀なくされる。最大の武器であるタックルを仕掛けることに対して、頭の片隅で恐怖心を抱く自分がいた。手術を受けて完治しても、元の自分に戻れたとは言い難かった。

「肩の状態を気にして、正面からタックルできないのはもどかしかったです。小さな頃からタックルを重点的に練習してきたのに、その武器がなくなってしまった。たった1つのプレーで、私のレスリングスタイルがガラッと変わってしまったんです」

 栄光の裏にあった、1つの悔恨。自分の形を貫き通せなかった東京五輪での負けも潔く受け入れるしかなかった。

 マットに別れを告げた土性の生活は180度変わった。「あのきつい練習をやらなくていいという解放感」が心地良い。不定休のためにまったく予定を立てられなかった現役時代と違い、今は基本的にはカレンダー通りの休みを満喫する。

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