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部活への批判「学校は勉強する場所だ」 むしろ米国は…高校スポーツの存在感が学校で大きいワケ

『中等教育の主要原則』がなぜ運動部にとって重要なのか

 これは全米教育協会によって任命された委員会が取りまとめた教育方針だが、全米の中学・高校教育に決定的な影響を与えた。教育史の研究によれば、この報告書は「教育史において、これほど重要な刊行物はない」と評されるほどの影響力を持ち、当時の学校管理者や教育リーダーたちが中等教育のあり方を考えるうえで、「バイブル」のような扱いを受けたという。

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 この報告書がなぜ運動部にとって重要なのか。それは、高校教育の目的を、それまでの「学業中心」から、健康、人格の形成、余暇の有意義な活用などへと大きく広げた点にある。つまり、運動部活動は「勉強の妨げ」ではなく、これらの新しい教育目的を達成するための「正当な手段」として位置づけられたのだ。

 この時代の歴史的な背景にもふれてみる。アメリカでは1910年頃から40年頃にかけて、義務教育制度の整備や移民の増加、児童労働の禁止などを背景に、高校進学者が急増していた。それ以前の高校は、十代後半の一部の生徒が大学進学を目指すための場所であり、ラテン語などのカリキュラムが中心だった。しかし、卒業後すぐ(もしくは中退して)に社会に出て働く生徒が多数を占めるようになると、全生徒に大学進学向けの勉強をさせるのは非効率だとみなされた。

『カーディナル・プリンシプルズ』は、そのような時代に教育の転換を示した。この報告書は高校教育の目標として主要な7項目を掲げているが、学業に直接関わるのは2番目の「基礎的なプロセスの習得」という項目だけである。

 注目すべきは、7つの目標の最初に「健康」が掲げられていることだ。残りの項目も、家族の絆、職業教育、市民教育、余暇の有意義な活用、倫理的人格の形成といった内容で占められており、従来の「勉強偏重」の高校教育を根本から見直すべきだとしている。さらに大学側に対しても、高校の変化に配慮すべきだとしている。

 そして、この『カーディナル・プリンシプルズ』は2つの機能を学校に求めた。一つは、生徒それぞれの適性を伸ばして社会で活躍できる人材を育てる「専門化」の機能。もう一つは、多様な背景を持つ生徒たちが民主社会の構成員として共通の価値観を育む「統合化」の機能である。そのうえ、ものすごく潔く能力差を認めていて「能力の高い生徒と低い生徒に対する最大・最小の課題設定」と書いていて、ひとりひとりの能力に違いがあることを前提した課題設定をすべしとしている。

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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