府中の関係者席、一緒に叫んだ「ミルコーッ!」 顔見知り2人の距離を縮めたエイシンフラッシュの「縁」
3歳馬による三冠レースの戦いも先週の菊花賞で幕を閉じ、今週は第170回を迎える伝統の古馬G1天皇賞・秋(芝2000メートル)が27日に東京競馬場で行われる。ジャパンカップ、有馬記念と続く古馬の“王道路線”の初戦。競馬ライターの井内利彰氏が調教を通じてさまざまな視点から過去のG1レースを振り返る企画「調教捜査官の回顧録」では、天皇皇后両陛下の行幸啓を賜り、天覧競馬となった12年前のレースにスポットを当てた。2年5か月ぶりの復活を果たしたダービー馬。自画自賛の予想とともに生まれた「縁」に思いを馳せた。
2012年に天皇賞・秋を制したエイシンフラッシュ
3歳馬による三冠レースの戦いも先週の菊花賞で幕を閉じ、今週は第170回を迎える伝統の古馬G1天皇賞・秋(芝2000メートル)が27日に東京競馬場で行われる。ジャパンカップ、有馬記念と続く古馬の“王道路線”の初戦。競馬ライターの井内利彰氏が調教を通じてさまざまな視点から過去のG1レースを振り返る企画「調教捜査官の回顧録」では、天皇皇后両陛下の行幸啓を賜り、天覧競馬となった12年前のレースにスポットを当てた。2年5か月ぶりの復活を果たしたダービー馬。自画自賛の予想とともに生まれた「縁」に思いを馳せた。
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私が栗東トレーニングセンターで取材を始めた頃の住まいは実家の東大阪。車だと1時間半ほどの「通勤時間」になりますが、自分の好きな仕事ということもあり、この時間を苦に思うことはありませんでした。
ただ、トレセンに通って関係者と仲良くなると「今日の夜、ご飯行こうや」という話になります。でも「大阪から来てるんで」とか「車なんで」と断ることがほとんど。「そうか、しゃあないな」と無理強いされることはありませんし、そもそもの関係が悪くなるということもありません。でも、業務的な付き合いで仲良くしているというわけではなかったので、私も後ろ髪を引かれるような思いだったことは今でも覚えています。
最初は追い切りが集中する水曜日しか通っていませんでしたが、木曜日の追い切りを取材することも増えてきます。そのうち、追い切りがなくても火曜日の調教も見たいと思うようになり、自然と栗東に居を移すことになります。
こうなったら、もうトレセン人。ご飯に行くのはもちろん、ボウリングに行ったり、甲子園(時にはナゴヤドーム)に行ったりと関係者と密度の濃い時間を過ごして、自分の経験値がどんどん上がっていくような気がしました。
そんな「人との出会い」において、2012年の天皇賞・秋は自分にとって大きな財産となるレースでした。本命を打ったのはエイシンフラッシュ。その根拠の一つが1週前の追い切りの動きでした。当時の予想コラムの一部をそのまま再掲しておきます。
「見た目の追い切り。いつもいい動きするんでしょ、という突っ込みには反対しません。むしろ、そうですよ、と答えたいところ。ただ今回はアイカップを着用して馬の後ろで我慢させる調教を行ったというところが肝。昨年の天皇賞秋も早めに前を捕まえに行くようなレースをして負けているだけに、我慢させて爆発させる、これが今のエイシンフラッシュには必要な調教ということでしょう。そしてそれを操縦するミルコ・デムーロ騎手との相性が抜群。とにかくミルコの指示通りに動けるようになったエイシンフラッシュなら再びG1を勝つチャンスがあるはずです」
まるで事前にレース内容が見えていたかのようなコラム。たまにはこんな素晴らしい予想もできるんだ、と自画自賛せずにはいられません(笑)。
レース当日は東京競馬場でイベントを行い、レースはマスコミの関係者席で観戦しました。この席、たまにマスコミ以外の関係者がいることもありますが、この時はエイシンフラッシュの藤原英昭厩舎の藤原和男調教助手が隣にいました。エイシンフラッシュは道中後方からインを突き、上がり33.1の脚で駆け抜け優勝。最後の直線はふたりで「ミルコーッ!」の大絶叫。ゴール後は握手して抱き合って、大喜びでした。
それまで、和男さんとは挨拶をする程度の仲でしたが、この時がきっかけとなり、エイシンフラッシュの勝ち祝いに呼んでいただきました。それからは藤原英昭調教師にも懇意にしていただき、事あるごとに厩舎のイベントに招待していただいています。しかも私だけでなく「家族も一緒においで」と声をかけていただき、図々しくお世話になっています。
そのおかげでいろんな人との縁が広がりました。岩田望来騎手は藤原厩舎で見習い騎手をしていた頃から話をさせてもらった関係で、今でも気軽に声をかけることができる騎手の一人です。
そんなこともあって、今でも関係者との「縁」は大切にさせてもらっています。今週の天皇賞・秋には、すごく親しくさせていただいている友道康夫厩舎のドウデュースが出走予定。どんなレースを見せてくれるか、今から楽しみにしています。
(井内 利彰 / Toshiaki Iuchi)