三冠牝馬を猛追した愛馬「勝てなかったけど褒めてあげたんだろうな…」 1通のメールに滲み出た調教助手の愛情【2012年秋華賞・アロマティコ】
好走パターンでも…調教予想の欠点とは
しかし、この方法にも欠点はあります。それは好走パターンの調教を課したけれども、その馬にはマッチしていなかった場合。今回であれば、牝馬としてはタフな調教を課すので、調教量を増やしたものの、飼葉を食べなくなり馬体が減ってしまえば、その馬自身のパフォーマンスが低下してしまいます。今現在の調教内容がその馬にフィットしているかどうか、それは関係者に聞くしかありません。
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私は栗東トレーニングセンターで追い切りを見て、関係者に取材することができる立場にあります。アロマティコを管理した佐々木晶三厩舎は調教師と懇意にさせていただき、厩舎スタッフとはコロナ以前はボーリングをしたり、食事に行ったり、私がその輪に入れていただいている仲間のような存在です。この一文だけを切り取れば、仲良し意識で本命を打ったように思いますが、前記した客観的な理由が大前提です。ただ、親しくしているからこそできる取材というものがありますし、私は予想する上で客観と主観のバランスをすごく重視しています。
レース当日は中山競馬場で仕事があったため、秋華賞はモニター観戦でしたが、アロマティコは馬体重の増減がなく、パドックでの気配は抜群。単勝6番人気でしたが“やってくれるんじゃないか!”という期待を持ってレースを見守ります。
しかし、勝ったのはジェンティルドンナ。桜花賞、オークスを勝っていたので、このレースで牝馬三冠を達成しました。そして、ハナ差2着はヴィルシーナ。こちらは桜花賞もオークスも2着。つまり、2012年の牝馬三冠はすべてジェンティルドンナとヴィルシーナで決着したわけです。そんな3歳牝馬の絶対的な2強に対して3着したのがアロマティコでした。
本命は勝ってナンボというのが私の考え方ですが、さすがにこの時はよく3着にきた!頑張った!とすごくうれしい気持ちになりました。「競馬予想TV!」で公開している馬券も複勝と3連単が的中したので、レース後、野口助手にも「ありがとう」とメールしたかったのですが、勝っていないのにありがとうはおかしいかも?という素朴な疑問が…。
でも改めてレースを振り返ると2強には完敗していて、本当に頑張った3着。だから素直に自分の気持ちをメールで送ろうと思いました。メールの返信は「本当によく頑張ってくれました」と大満足の内容。もともと馬に対する愛情の深い助手さんなので、勝てなかったけど、きっとアロマティコを褒めてあげたんだろうな、これで良かったんだなと感じた瞬間でした。
(井内 利彰 / Toshiaki Iuchi)