「もう一度、選手として戦いたい」 車いすの元サッカー選手・持田温紀、3年の時を超えた運命的な挑戦
選考会の演技で初めて感じたダンスの楽しさ
車いす生活になってから知った様々な感情や、大学サッカー部の仲間と得た“熱いもの”を表現したい――。音楽もダンスの経験もないなかでの挑戦は困難を極めたが、大学の授業やサッカー部の活動の合間を縫って練習を重ねていく。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
持田さんの新たな挑戦を、周囲も快くサポートした。パラダンススポーツ協会の施設以外での練習場所を確保するため、出身校である町田市立金井中学校の校長に相談すると「気が済むまで練習を続けなさい」と、日によっては21時頃まで開放してくれた。また、中大1年時に履修した体育の先生は新体操が専門。ダンスを学びたいと相談すると、キャンパス内の施設で特別にレッスンを受けることができた。
そして初挑戦から約4か月後の2023年6月、持田さんの姿は同年8月に開催される「東京2023パラダンススポーツ国際大会」に向けた選考会の会場にあった。出場する種目は男子フリースタイルのクラス2。「イメージとしてはフィギュアスケートに近い」という競技は、好きな音楽に合わせて車いすを巧みに操作しながら演技をしていく。
選んだ曲は、SUPER BEAVERの「ひとりで生きていたならば」。初めて聞いた時から歌詞に惹かれ、「サッカーを通した出会いを思い出せる曲なんです。この曲なら自分が何よりも思いを込めて演技できる」と選曲。「パラダンススポーツはクラス分けが2つで、僕が出場したクラス2のほうが障がいの重さは軽いので、全体的にレベルも高いんです」というなかで、持田さんは見事に国際大会出場権を勝ち取った。
「じつは選考会直前にスランプのような状況に陥っていたのですが、本番では緊張もあってか、急にそれまでとは見違えるような熱さを出すことができて、初めて『ダンスは楽しいな』と思うようになりました」
8月に東京の国立代々木第一体育館で開催された「東京2023パラダンススポーツ国際大会」には、21か国の約100名の選手が参加。「最下位になることも覚悟していた」が、大学の友人などが多く見守るなか渾身の演技を披露し、15選手中8位入賞を果たした。
そして持田さんにとっては、この大会で忘れられないことがある。それは各国の出場選手と限られた時間の中で交流し、お互いの演技を称え合ったことだ。