定員45人のサッカー部に300人トライアウト参加 あふれた生徒の機会損失も補う部活の地域展開とは
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「アメリカの学校運動部の地域展開」について。
連載「Sports From USA」―今回は「アメリカの学校運動部の地域展開」
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「アメリカの学校運動部の地域展開」について。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
◇ ◇ ◇
これまでも繰り返してレポートしてきたように、アメリカの中学校や高校にも運動部があって、集団種目ではトライアウトを課すことが一般的だ。これは、試合出場登録できる人数を目安にチームを作るためである。活動予算があって、指導者の人数を確保できる場合は、バーシティー(1軍)と呼ばれる学校代表チームのほかに、主に下級生で編成するジュニア・バーシティー(2軍)や新入生で編成するフレッシュマンのチームを持つこともある。学校の運動部は、学校を代表するチームとして、勝利を目指して他校と試合をしている。
アメリカのユーススポーツを研究するアスペン研究所では、学校でのスポーツ活動は、昔ながらの学校の運動部しか選択肢がないとしており、生徒を中心とした健康的な身体活動のために複数の選択肢を設けることを提唱している。この提唱は、全ての人にスポーツまたは健康的な身体活動を、という理念が土台になっている。だから、すべての生徒に何らかの部活動を行うことを推奨し、簡単にやめさせてもらえない、という日本の中学校の問題とは違うだろう。
アスペン研究所の提唱するモデルには、これまでの学校の運動部のほかに、校内運動部、生徒主導型クラブ、体育の授業、フィットネス、地域のレクリエーション・公園局を拠点とする地域スポーツを含んでいる。そして、学校はスポーツの機会を「提供する」とともに、地域でのスポーツの機会を「つなぐ」という2つの役割を担うとしている。
しかし、できるだけ多くの生徒に、それぞれが望むスタイルでの身体活動の場を提供したり、その場とつなげたりするといっても、難しい。まず、お金と人が必要になる。それに、日本でも同じことだろうが、学校ごとに抱えている課題も違う。アメリカは学区間格差も大きく、学校によって保護者の世帯収入や、地域の子どもを支える人の力や財政事情もかなり違う。
アスペンでは、提唱モデルを実践している学校をケーススタディとして取り上げているが、学校の規模や地域によって8つにわけている。都市部公立大規模校、都市部公立小規模校、農村部公立大規模校、農村部公立小規模校、郊外公立大規模校、郊外公立小規模校、私立高校、公費運営のチャータースクールである。一般的には都市の内部には低所得世帯が多く、郊外には経済的余裕のある世帯が多い。農村部はRural Areaと呼ばれるもので、人口密度が低く、スポーツ施設にアクセスしにくいという課題がある。
それぞれのカテゴリーごとに生徒の置かれている状況、生徒のスポーツ活動の実態を調査して、課題を把握したうえで、どのように課題を改善していくかを示し、その事例としてカテゴリーごとに実践例を紹介している。一連の調査とレポートには、アディダスなどのスポーツ用品メーカーがスポンサーになっていて、その取り組みで高い評価を受けた学校には賞金が贈られるのもアメリカらしい。