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世界的スターの一言から始まった松本山雅の奇跡 本格始動直前、水面下で動いた長野との合併話

株式会社松本山雅の非常勤取締役、大月弘士(左)と八木誠の両氏。ふたりは青年会議所時代、ワールドカップ後のアルウィンの有効活用を探っていた【写真:宇都宮徹壱】
株式会社松本山雅の非常勤取締役、大月弘士(左)と八木誠の両氏。ふたりは青年会議所時代、ワールドカップ後のアルウィンの有効活用を探っていた【写真:宇都宮徹壱】

すべては「チラベルト発言」から始まった

 アルウィンの正式名称は「長野県松本平広域公園総合球技場」といい、2002年ワールドカップ日韓大会のキャンプ誘致のために作られた。結果として、ここで合宿を張ったのはパラグアイ代表。当時のスター選手だったホセ・ルイス・チラベルトが「こんなに素晴らしいスタジアムがあるのに、なぜ地元にクラブがないのか?」と発言したことは有名である。

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 2002年のワールドカップ開催を契機として、地方都市にも巨大なスタジアムが建設され、それを埋めるコンテンツとして新潟や大分ではJクラブが生まれた。松本に関しては、キャンプで訪れた選手の発言から、結果としてJリーグを目指すクラブが誕生したことになる。

 当時を知る人々の言葉に耳を傾けることにしよう。まずは、株式会社松本山雅の非常勤取締役を務める、大月弘士と八木誠。当時はともに松本市の青年会議所に所属しており、大月はのちに初代クラブ社長、そして八木は副社長に就任する。まずは大月の証言。

「あの時のチラベルトの発言に、強く反応したのが『長野県にプロサッカークラブをつくる会(以下、つくる会)』にいた疋田(幸也)くん。2003年に青年会議所に来て『松本にJリーグを目指すクラブを本気で作りましょう!』と言ってきたんですね。私は当時、青年会議所の理事長で、アルウィンの活用にも興味があったんだけど、任期は1年のみ。そこで2004年に当時の関係者を中心に『NPO法人アルウィン・スポーツ・プロジェクト(ASP)』を立ち上げることになりました」

 疋田は、のちにサポーターグループ「ウルトラス・マツモト」の初代代表となる人物。そんな彼が、プレーヤーとしても深く関わっていたのが、当時北信越リーグで活動していた山雅クラブで、これが松本山雅FCの母体となる。今度は八木の証言。

「母体となるチームを山雅クラブとすることは、実はASPができる時には決まっていました。県内にはサッカークラブがいくつかありましたが、アルウィンが松本市にあることが1つ。そして山雅クラブが下部組織を持っていることも、重要な決め手の1つになりました」

 のちに松本山雅FCの運営母体となるASPを立ち上げるにあたり、1976年の開幕時から北信越リーグで活動している山雅クラブは、必要不可欠な存在であった。ところが当時は「とてもJリーグを目指すような状況ではなかった」というのが、当事者たちの一致した見解。ともにASP起ち上げからの理事である小林克也と高橋耕司は、それぞれこう証言している。

「2001年に北信越リーグの会議があって、そこで言われたのが『やる気がないなら(リーグから)出ていってください』と。アルビレックス新潟が出てきたこともあって『上を目指す気がないクラブは、ここにいてもらっても困る』という雰囲気があったんですよ」(小林)

「これからクラブをどうするかという話になった2002年のある日、疋田くんから『お2人にその気があるなら、僕はサポーター第1号になります』と言ってくれたんです。『つくる会』は特定のクラブを応援しないので、彼は抜けてこの活動に加わってくれたんですね。そこから山雅クラブと青年会議所、そして疋田くんのような有志を巻き込んでASPが立ち上がったんです」(高橋)

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宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

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