誤審で「目立つのは当たり前」 仙台六大学野球の審判部長・坂本健太が批判覚悟で球場に立つ理由
覚悟を持っていても試合前夜は眠れない
坂本に審判に向いている人の特徴を尋ねると、「逆に向いていない人は考え込んでしまう人。すべてのジャッジが2分の1なので、審判がフリーズしたら競技が止まってしまう」との答えが返ってきた。相当な集中力と瞬発力が求められるため、坂本は審判、特に球審を務めた試合の直後は「へとへとになる」という。その上で「へとへとになっていないと選手たちに失礼」だとも考えている。選手たちが「一球のため、ワンプレーのためにどれだけの時間努力しているのか」を知っているからだ。
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今年から審判部長に就任し、「選手のため」との思いは以前にも増して強まった。具体的な方針は定まっていないものの、仙台六大学野球連盟におけるピッチクロック(投手の投球間隔の時間制限)向けタイマーの設置やリプレー検証の導入といった「改革」も必要だと考えている。選手の心情を第一に考えているからこそ、試合時間の短縮や判定の正確性向上は必要だとの考えに至った。
一方、坂本は「選手に気持ち良くプレーさせるだけではダメ」とも口にする。
「試合を成立させるためには、選手がルールに則ってプレーする必要がある。試合を成立させるためにマネジメントするのが審判であって、自由にやらせるのが審判ではない」
投手の投球動作中の声出しといった「マナー違反」には厳正に対処し、「選手ファースト」を履き違えないよう心がけている。
試合中は冷静沈着なイメージの強い審判だが、すべての審判が強靭なメンタルを持つわけではない。批判を受ける覚悟を持つ坂本でさえ、今でも球審としてグラウンドに立つ試合の前日は眠れない夜を過ごす。
「ワンバウンドしたボールをストライクと判定してしまったらどうしよう、ボールが落ちているのにアウトのコールをしてしまったらどうしよう、妨害行為が目の前で起きたらどうしよう……」
不安ばかりが頭をよぎる。試合中に監督らから抗議を受け、落ち込む日もある。
また、選手の大一番は審判の大一番でもある。例えば今春の仙台六大学野球リーグ戦、勝ったほうの優勝が決まる仙台大vs東北福祉大の第3戦は、球審、塁審を決めるのにかなりの時間を要した。選手の運命を左右する試合で、積極的に大役を買って出る審判は多くない。それほど審判は計り知れない責任感と重圧を背負っている。
立場は違えど、野球と向き合う姿勢は選手も審判も変わらない。そして真剣勝負の中で起こる「ミス」をなくすための努力は、選手だけでなく審判も日々重ねている。