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名古屋の「赤」から岐阜の「緑」に変えた2人の情熱 Jリーグ昇格へ「命懸けだった」熱狂の4年間

故郷に戻って2年目の2006年、森山泰行はFC岐阜の中心選手として貪欲に上を目指していた。そして2008年にはJ2に到達するが……【写真:宇都宮徹壱】
故郷に戻って2年目の2006年、森山泰行はFC岐阜の中心選手として貪欲に上を目指していた。そして2008年にはJ2に到達するが……【写真:宇都宮徹壱】

名古屋の元選手と元サポーターが故郷でJクラブを目指したけれど…

 東京の帝京高校進学を機に、15歳で故郷を離れてから20年後の2004年、森山は岐阜に戻ってきた。この年の7月に名古屋で契約満了となり、引退セレモニーも行われていた。しかし、この時に彼が引退したのは「Jリーガー」。35歳となった彼は、当時東海2部でアマチュアだったFC岐阜に、無給で参加することとなる。

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「名古屋で引退前に練習試合をした時、初めてFC岐阜の存在を知りました。それで『上を目指すんだったら、お手伝いしますよ』って言ったんです。この時に考えていたのが『地域への恩返し』。名古屋のようなオリジナル10は、大企業が支えていたけれど、もっと地域に根ざした形でボトムアップするのが、本来あるべき姿ではないか。そう考えたんです」

 2005年のFC岐阜は最終節で、7得点差で勝たなければ昇格できない逆境を覆し(7-0で勝利)、東海1部への昇格を果たす。この年、元日本代表の戸塚哲也を監督に招聘。元Jリーガーも続々と補強し、2006年のFC岐阜はJリーグを目指す姿勢を鮮明にする。そして最後のピースとなったのが、地元で通信機器販売会社を起業していた吉田だった。

「地元にJクラブを作るべく森山が戻ってきて、ゼロからイチに変えるために僕が呼ばれたんです」と当人は振り返りながら、こう続ける。

「僕の役割は、クラブのスタッフをウチの会社から出すこと、選手の働く場を提供すること、そして運営会社の立ち上げに出資すること。まあ、サポーターの延長みたいなものですよ(笑)。当初、そんなにお金を出すつもりはなかったんですが」

 この年のFC岐阜は、東海1部を難なく優勝。しかし地域決勝(1次ラウンドは高知、決勝ラウンドは大分)で2位となり、宮崎を本拠とするホンダロックSCとの入れ替え戦をホーム&アウェーで戦わなければならなかった。この年、運営費の多くは吉田の会社が負担したが、結果として当初見込んでいた運営費の倍近くかかってしまう。クラブはJFLに昇格したものの、赤字を完全に埋めることができなかったことで、吉田は自身の印象をネガティブなものにしてしまう。

「あの当時は地元も盛り上がっていて、東海1部で1万人が入った試合もあったんです」と語るのは森山だ。2005年の東海2部から08年のJ2まで(当時J3はなかった)、毎年のようにFC岐阜はカテゴリーを上げ、そのたびに地元は熱狂した。

「当時の岐阜は、毎年のようにカテゴリーを上げていかないと(クラブが)消えてしまう可能性があったんですよね。地元でも『岐阜にもJクラブを!』という機運が盛り上がっていたし、僕も吉田も命懸けで上を目指していました。結果、最短の4年で岐阜にJクラブができましたけれど、その間に吉田がいなくなったのは痛かったですね」

 2006年の赤字が尾を引くこととなり、吉田はクラブ中枢から遠ざけられてしまう。翌2007年からGMとなる、今西和男のサポート役として2012年まで取締役を務めたものの、実質的には「名ばかり」状態。当の森山も、2008年に再びJリーグでプレーするも、この年を最後に2回目の引退をしている。クラブの黎明期を支えた、森山と吉田の名前は急速に忘れ去られていった。

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宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

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