消防士をしながら部活指導者を両立 米国のレスリング名コーチに聞く「外部コーチ業」の裏側
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「外部コーチの仕事と生活の実情」について。
連載「Sports From USA」―今回は「外部コーチの仕事と生活の実情」
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「外部コーチの仕事と生活の実情」について。
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アメリカの学校運動部のコーチには、教員と外部の指導者がいる。今、外部コーチと書いていたが、仕事の内容や権限は日本の部活動指導員とほぼ同等である。1930年代から70年代半ばごろまではコーチは教員だけだったが、性別によって機会を差別しないというタイトルIX法による女子の運動部増加や、コーチを引き受けない教員が増えたことで、外部からのコーチを迎えるようになった。各学校の運動部を取りまとめる州の高校体育協会・連盟でも、外部指導者の資格制度を整備してきた。
日本でも部活動における外部指導者、部活動指導員という制度がつくられ、さらに地域移行化でも、地域の指導者がコーチすることを想定している。しかし、運動部のコーチだけでは生計を立てるだけの収入を得るのは難しいと指摘されている。アメリカの外部コーチは、どのように生計を立てているのか、忙しい仕事と生活のバランスを取っているのだろうか。20年間にわたって、ニューヨーク市の消防士をしながら、エッジモント高レスリング部を率いてきたピート・ジェイコブソンさんに話を聞いた。
また、ジェイコブソンさんは2つの仕事を両立させ、3度にわたってニューヨーク州で優勝しただけなく、他の指導者を助けるべくコーチングに関する情報をウェブサイト(https://winsmarter.com/)で公開し、全米レスリングコーチ協会のファシリテーターも務めている。
――消防士とコーチをどのように両立してきたのか。
「私には子どもが2人いますが、キャリアの大半は子どものいない生活でした。消防士の仕事は1シフトが24時間で、8日間に2回のシフトです。私は、日曜日はレスリング部の活動は休みとしていたので、日曜日にシフトを入れていました。また、他の消防士とシフトを交換してもらうこともできます。レスリング部のシーズンは冬なので、秋や春にはシフトを増やし、冬は同僚にその分のシフトをかわってもらっています。そうすることで妻と旅行に行くこともできます。
また、他の仕事と比べてユニークだと思うのですが、ニューヨーク市の消防局は年間に与えられた休暇をまとめて取ります。例えば、年間に4週半の休暇などを一回にまとめて取ります。私はレスリング部のシーズン中にこの休暇を取っていました。子どもが生まれてからは明らかに少し難しくなってきましたね。土曜日はレスリングのトーナメント大会が一日中ありますから、家を空けています。日曜日は一日中、消防士として働きますので、その間は妻が1人で子どもたちの面倒を見なくてはいけないからです」