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30年前のJ開幕戦を見た13歳が鹿島社長に… メルカリが継承した常勝軍団の伝統とベンチャー精神

ヴィッセル神戸戦は1-5の大敗。一時は15位まで沈んだ鹿島だが、その後は5連勝で5位に浮上した【写真:宇都宮徹壱】
ヴィッセル神戸戦は1-5の大敗。一時は15位まで沈んだ鹿島だが、その後は5連勝で5位に浮上した【写真:宇都宮徹壱】

「タイトル獲得」だけがクラブの価値なのか?

 人口約4万5000人の小さな企業城下町に、1万5000人収容の屋根付きサッカー専用スタジアムができたことで、鹿島アントラーズの伝説は始まった。やがてスタジアムは改修され、この地でワールドカップも開催された。けれども、これからもサッカー「だけ」で本当にいいのだろうか? そうした疑問が、かねてより小泉の胸中には存在していた。

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「データを取ってみると、アントラーズのサポーターって、片道90分くらいかけてスタジアムに来てくれているんですよ。往復180分で、試合が90分。『それだけでいいんですか?』って話になりますよね。我々のホームタウンは、すでにサッカーが文化として根付いています。スタジアムだけでなく、その周辺にも楽しんでいただけるコンテンツを作っていきたい。そうすれば街にもお金が落ちるし、『いつかはこっちで暮らそうかな』と思う人が出てくるかもしれない」

 実は鹿行地方には、釣りやサーフィンやサイクリングなど、自然を満喫しながら楽しめるレジャー環境に事欠かない。自治体がもっとアピールすれば、関係人口から定住人口へのシフトも可能になるし、アントラーズがそのシンボルとなり得ると小泉は考える。

「もちろん、クラブ単体でできることではなくて、パートナー企業さんと一緒に取り組んでいきたい。我々のホームタウンって、人口減少をはじめとする地域課題の先進地域だと思っています。だからこそアントラーズが、パートナー企業さんを巻き込みながら、課題解決のビジネスプロデューサーになっていければ、ということも考えています」

 ジーコを迎えてのスタートアップ時の鹿島は、タイトルを獲得し続けることでファン・サポーターの支持を集め、Jリーグでも一目置かれる存在となった。もちろん体制が変わっても、タイトルを追い求める基本姿勢は変わらない。けれどもタイトルから縁遠くなったからといって、ファンが離れていくようなクラブのあり方でいいのか、という疑義も成り立つのではないか。

 両鈴木から事業を引き継いだ小泉が、タイトルを追求しながらも、新たなクラブ像の構築に向けてチャレンジしているのは間違いない。そして自分たちのミッションを終えた「次」についても、すでにイメージを固めつつあるようだ。小泉のこの言葉で、本稿を締めくくりたい。

「僕らが先人からクラブを引き継いだように、いずれ僕らも誰かにこのクラブを引き継ぐことになるでしょう。そのためにも、再現性のある仕組みに変えていくこともチャレンジしていく必要があると思っています。フットボールもビジネスも、両方が永続的に成長する仕組み。それを僕が社長でいる間に、作っていきたいですね」(文中敬称略)

(宇都宮 徹壱 / Tetsuichi Utsunomiya)

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宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

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