大谷翔平の「吼えた姿」に驚いた WBC日本戦の死闘、メキシコの元オリックス右腕が明かす舞台裏
野球の第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本代表「侍ジャパン」が世界一にたどり着いた道のりで「名勝負」と評されるのが、6-5とサヨナラ勝ちした準決勝のメキシコ戦だ。日本を追い詰めながら敗れたメキシコ代表の一員に、昨シーズンまでオリックス・バファローズに在籍した31歳の右腕セサル・バルガス投手がいた。日本の対戦相手の中継ぎ要員としてブルペンから見た、あの試合を振り返った。(取材・文=松本 行弘)
セサル・バルガスが語る日本野球・前編、ブルペンから見たWBC準決勝の死闘
野球の第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本代表「侍ジャパン」が世界一にたどり着いた道のりで「名勝負」と評されるのが、6-5とサヨナラ勝ちした準決勝のメキシコ戦だ。日本を追い詰めながら敗れたメキシコ代表の一員に、昨シーズンまでオリックス・バファローズに在籍した31歳の右腕セサル・バルガス投手がいた。日本の対戦相手の中継ぎ要員としてブルペンから見た、あの試合を振り返った。(取材・文=松本 行弘)
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「今日の野球の神様はメキシコに微笑んでいるぞ、と思った」とバルガスが語ったのは、5回の日本の攻撃で、岡本和真内野手の大飛球をレフトのランディ・アロサレーナ外野手がフェンスぎりぎりでジャンプしてキャッチした時だ。メキシコは4回に3点本塁打で大きな先取点を奪っており、日本に好機をつくられながら失点を許さない展開。そう思ったのは、バルガスだけではなかっただろう。
「準決勝だからといって、試合前に監督やキャプテンから特別な話はなかった。いつも『まずは野球を楽しむこと。そして自分ができることをやっていこう』とみんなで言っている。少しチーム全体に緊張感はあったが、試合が始まったらなくなった。3ランの時はみんなで叫んだ。チームの一員だと示すためにも、ブルペンから声援を送っていた。あの時は『今日はみんなで勝つ』とファミリーのような気持ちで一つになっていた」
バルガスはNPBでのプレーを目指して2021年に来日し、独立リーグの茨城アストロプラネッツに入団。シーズン中の8月にオリックスと契約し、クライマックスシリーズのファイナルシリーズで好救援をし、ヤクルトスワローズとの日本シリーズにも登板した。2シーズン目は活躍できず戦力外となり、メキシコに帰国したばかりで迎えたWBC。メキシコ代表では直近の日本代表を最もよく知る選手であり、主力の山本由伸投手や吉田正尚外野手の元同僚としての役目を果たした。
「対戦したり、見たりして、日本代表のほとんどを知っていたので、試合前のピッチャーミーティングで自分の持っている情報はすべて伝えた」
特に要注意として名前を挙げたのは吉田、村上宗隆内野手、近藤健介外野手だったという。その1人、吉田に7回に浴びた同点の3点本塁打をこう振り返る。
「吉田は腕の振りを上手く使い、修正力に優れた打者。インコースの変化球は避けて、コースを投げ分ける配球が必要だとミーティングで伝えていた。なんとか抑えようと努力したが、吉田は本当に対応するのが早く、あのような結果になってしまった。あの本塁打でそれまでのムードが一変して、ブルペンも少し張り詰めた雰囲気になった。直後の8回に2点を取って、やっぱりいけるぞ、となったが……」