インディカー超名門が佐藤琢磨を求めた理由 インディ500制覇へ、期待する“頭脳と経験”
カウディン氏が見た強み「琢磨は経験に基づいた技術的な理論がある」
これまでチップ・ガナッシ・レーシングにとって、佐藤琢磨というレースドライバーは手強い相手だった。とりわけ、2020年のインディ500には苦い記憶がある。シリーズ王者6度のスコット・ディクソン(ニュージーランド)が終始レースをリードしながら、終盤に佐藤が猛スピードで現われ、一騎打ちの末に優勝を奪われた。最後はイエローコージョンが出たため、最後まで走っていれば勝敗は分からなかったという声もあったが、ディクソンは佐藤のマシンのスピードに脱帽していたという。
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カウディン氏は「琢磨は経験に基づいた技術的な理論がある。長く一緒に仕事をしたトニー・カナーンはフィーリングを大切にするドライバーだったが、琢磨はシュミレーターで得た情報を元に何が必要かを的確に指摘してくれる。エンジニアとしてはすごく仕事がしやすいし、次のレベルに押し上げるのに役立つ。うちには4人の優れたドライバーがいて、各自から正確な情報を得ることができるのは強み」と話す。ディクソンを筆頭に、21年王者で通算4勝のアレックス・パロウ(スペイン)、昨季インディ500を制したマーカス・エリクソン(スウェーデン)らの実力者にインディ500で2勝を挙げている佐藤が加わり、さらに強力な布陣となった。「4人のフィードバックはとても信頼できるので手早く改善することができると思う」(カウディン氏)と、万全な態勢でインディ500に挑む。
チームメートのパロウは第2戦後に「インディカーで豊富な経験がある琢磨の加入はチームにとって素晴らしいこと。彼と一緒にインディ500を戦うのを待ちきれないよ。今回は一緒にいる時間が短かったけど、準備期間があるのでいろいろと聞くことができる。彼の知識と経験はとても貴重」と、佐藤が持つ「ノウハウ」に興味津々だ。チームはオーバルで強さを見せているが、マクラーレンやペンスキーらライバル勢も差を縮めてきているだけに油断はできない。佐藤の加入は、強豪の優位性をより強固にするための重要なピースだった。そして、佐藤のレースに対する熱心な姿勢と知識はすでにチームから認められている。カウディン氏は「いつも我々が最初にガレージに来て、帰るのは最後。彼の熱心さに驚かされているよ。他のドライバーたちも琢磨の意見に耳を傾けているし、既に5、6年チームにいるかのようにとけ込んでいる」と話す。
インディ500の公式練習は5月16日から始まり、20、21日の予選を経て、28日の決勝まで準備期間がとられている。ここでどこまで仕上げられるかがカギとなる。2017年と20年にインディ500を2度制覇している佐藤にとっては、キャリア終盤に巡ってきた大きなチャンス。これまでとは違う期待感を背に11号車が走る先に、3度目の栄冠があるのか――。その答えは5月28日、30万人を超える観客の前で出るだろう。
(岡田 弘太郎 / Kotaro Okada)