「水球のまち柏崎」と東京五輪の誤算 “皇帝”青柳勧、シンガポール代表率いる狙いとは
シンガポールと地方都市が直接つながる価値
スポーツ選手のセカンドキャリアにとっても、プラスの面があるのではないかとも青柳は話す。
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「特にマイナースポーツの選手は、このまま続けても将来食えるようにはならないと考えてしまう。水球を続ける意義ってなんだろうとか。でも、シンガポールと行き来しながら水球を続けるなかで、もがきながら水球以外の道に気がついたり、英語が使えるようになったり、チャンスが広がるきっかけが増える。海外を経験すると、大きく物事を捉えられる人が育ちやすいですし。以前は柏崎に来たら日本代表に入れるかもしれないよ、と言って誘いましたが、今後は柏崎の大学に来て水球やったら、海外遠征にバンバン行って、卒業した時は英語ペラペラになっていますよ、みたいなふうになる。なんか柏崎ってめちゃくちゃ海外とつながっているよね、と思われるようになるイメージを作っていきたい」
小さな島の都市国家ながら世界的な金融センターとして存在感を増しているシンガポールだけに、交流によって柏崎市にもメリットをもたらす可能性もあると期待している。
「約10年間、柏崎で仕事して、久しぶりに海外のシンガポールに来てみると『あれ? 日本の経済力って1位じゃなかったの?』と感じました。シンガポールは教育水準も生活水準も高くて、アジアでビジネスの一つの中心地になっている国です。そんな国と、地方都市が直につながるなんて普通じゃなかなかないですよね。しばらくコロナ禍でダメでしたが、格安航空券なら往復5万円くらいで若い子たちが行き来できた距離感です。水球のスパーリングでもそうですが、上のランクの人と組むと見習うところがあって、絶対にメリットがあると思います。そんなユニークな仕組みを作るのが僕の役割だと思っています。将来のことを考えると柏崎の水球にもメリットがある。ブルボンKZや街の活性化を、次のステップへ進めるための選択をしただけです」
シンガポール代表強化とクラブの発展の両方を見据え、「皇帝」はダイナミックに新しい道を切り開こうとしている。(文中敬称略)
■青柳 勧(あおやぎ・かん)
1980年生まれ、京都市出身。京都・鳥羽高3年で日本代表に選ばれ、筑波大在学中に1年間休学してスペインのプロリーグでプレー。卒業後、イタリアで3シーズン、モンテネグロで2シーズン、プロとして活躍。2009年に新潟産業大の教員となり、10年に大学のある新潟県柏崎市でクラブチーム「ブルボンウォーターポロクラブ柏崎(ブルボンKZ)」を発足させ、選手兼監督に就任。12年と18年に日本選手権で優勝した。12年ロンドン五輪出場権が懸かったアジア地区予選に日本代表主将として臨んだが、出場権は得られなかった。21年2月、シンガポール代表監督に就任。22年2月からはシンガポール水泳協会の水球のテクニカルディレクターを兼任している。
(松本 行弘 / Yukihiro Matsumoto)