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多様性は「好き勝手にしていい」ではない スポーツ選手が持つべき相手へのリスペクト

スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。今回はスペインで議論を呼んでいるレアル・マドリードのブラジル代表FWヴィニシウス・ジュニオールを巡る騒動を例に、スポーツ選手が持つべき倫理観や相手へのリスペクトについて持論を展開した。

レアル・マドリードで輝きを放つヴィニシウス。得点後のサンバには対立を煽っているとの声もある【写真:Getty Images】
レアル・マドリードで輝きを放つヴィニシウス。得点後のサンバには対立を煽っているとの声もある【写真:Getty Images】

連載「世界で“差を生む”サッカー育成論」:ヴィニシウスを巡る騒動

 スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。今回はスペインで議論を呼んでいるレアル・マドリードのブラジル代表FWヴィニシウス・ジュニオールを巡る騒動を例に、スポーツ選手が持つべき倫理観や相手へのリスペクトについて持論を展開した。

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 現代は「ダイバーシティ」で、人の行動様式もそれぞれのものになりつつある。しかし多様性は、「好き勝手にしていい」ということにはならない。その現場における共通のモラルがある。「自分のやり方」を押し通そうとすると、そこには摩擦が生まれる。対立構造に発展した時、はみ出たダイバーシティは自らに害を及ぼすことにもなるのだ。

 その法則は、サッカーの世界でも変わらない。

 カタール・ワールドカップ(W杯)にブラジル代表の一員として出場したヴィニシウス・ジュニオールは、今や世界有数のアタッカーとして注目される。昨シーズンは所属するレアル・マドリードの欧州戴冠に貢献。スピードを生かした変幻自在のドリブルは、日本代表の三笘薫と双璧をなす。

 ところが、最近のヴィニシウスは「トラブルメーカー」のような扱いを受けている。

 今年1月、ビジャレアルとの敵地戦。ヴィニシウスは0-2から3-2で逆転勝利する口火を切ったのだが、後半は敵ベンチから終始、非難を浴びていた。発端は彼自身のシミュレーションだった。ディフェンスとの接触で当たっていないところを痛がり、不必要に倒れ、審判にカードを要求。それはブラジル流で言えば「マリーシア」だったが……。

 ビジャレアルのベンチは「卑怯なダイバー」と一斉にヴィニシウスを非難した。ヴィニシウスが「黙れ」と反応し、火に油を注ぐ形になった。罵倒されたセカンドGKペペ・レイナは40歳のベテランで、15歳以上年下の選手の言葉遣いや馬鹿にした態度に激高。これにビジャレアルの選手やスタッフも同調し、ヒートアップしたピッチの選手が、強烈なタックルを食らわした。

「能なしが。もっと強く来いよ」

 立ち上がったヴィニシウスは、挑発で返した。そして逆転弾が決まった時、ビジャレアルのベンチに向けて舌を出し、下唇を突き出し、煽るようにサンバも踊った。これもブラジル流だろうが、スペインでは礼を欠いた行為である。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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