プロ野球の投手の伸びしろは「恐ろしいものが…」 やり投げ選手が驚くフィジカル潜在能力
現役のプロ野球投手が陸上のやり投げ選手に教えを受け、自主トレーニングで互いの知見を共有し合う。異色の試みが12月中旬、都内で行われた。参加したのはプロ野球の第一線でバリバリに活躍している面々と、やり投げで五輪に出場した経験を持つディーン元気(ミズノ)と小南拓人(染めQ)。ともに「投げる」が共通項にある競技で、何を求めて交流するのか。後編では、参加したやり投げ2人の視点で野球選手の凄みについて迫った。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)
野球×やり投げの合同自主トレーニング
現役のプロ野球投手が陸上のやり投げ選手に教えを受け、自主トレーニングで互いの知見を共有し合う。異色の試みが12月中旬、都内で行われた。参加したのはプロ野球の第一線でバリバリに活躍している面々と、やり投げで五輪に出場した経験を持つディーン元気(ミズノ)と小南拓人(染めQ)。ともに「投げる」が共通項にある競技で、何を求めて交流するのか。後編では、参加したやり投げ2人の視点で野球選手の凄みについて迫った。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)
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現役のプロ野球選手が悲鳴を上げるほど苦しんだ、やり投げ選手のトレーニング。
取材に訪れたのは、4日間に渡った合同トレーニングの最終日。トレーニングやストレッチなど、小南とともにさまざまなやり投げのメソッドをレクチャーしたディーンは「期間としては短く、全部ギュッと詰め込んで教える形にはなります。今日で言えば、最終日で疲労が溜まるので、体が張った時に動きを出していく方法について、ストレッチを中心に。また、僕らは腹筋周りが大切なので、日常的にやっているトレーニングも紹介させてもらいました」と説明した。
野球の投手と陸上のやり投げ選手。どちらも高い出力で、全身を使い、強く「投げる」という動作ではあるが、異なる点も多い。
投げる物は野球が約150グラムの小さな球体で、やり投げは約800グラムの長い棒状。野球は腕をしならせて振るが、やり投げは肘を曲げずに直線的な腕の軌道で投げる。また、マウンドから1歩で投げるのに対し、30メートルの助走から急ブレーキをかけて投げる。その分、必要になる筋力の差は大きい。
「僕らの方が投げている物は重いので、肩甲骨などの肩周りは(負荷の)違いはあります」と小南は言い、ディーンも「ウエイトトレーニングのBIG3(ベンチプレス、スクワット、デッドリフトの3種目)にしても、僕らはかなり挙げておかないと。それだけ耐えられるトレーニングをしています」と明かす。
例えば、重りをつけていないウエイトトレーニング用のシャフトを腰の後ろから反動をつけ、背中側に半円を描くようにして頭上に挙げるトレーニング。「お腹から全身に力を伝えて」とディーンは声をかけたが、選手は悪戦苦闘した。「そもそも、ああいうトレーニングがこなせないと、やり投げという動作が成り立たない。だから、これを70、80メートル投げる選手でできない人は見たことない。できずに投げられたら、逆に凄いくらいです」と話した。
教える側ではあるが、受ける刺激も多い。特に、身体能力が高い選手が集まる野球選手のポテンシャルには目を見張るものがある。
「一流と言われる方ほど、当たり前にできるレベルが高い。『これ、やってみてください』と言ったら、すぐできる。『やったことあるのか』と思うくらい。もちろん、日頃のトレーニングの蓄積や、もともと持っているものもあるけど、投球というものにこだわってきたからこそできるのかなと。僕らも感動するし、刺激をもらいます。逆に、ぱっとできない若い方でも、投手として150キロを超えているのは(伸びしろとして)恐ろしいものがあります」(ディーン)
同じアスリートとして学ぶこともある。毎日、数万人が埋まるスタジアムで戦う野球選手。投手はそのプレッシャーを一身に背負う。一流になれば、億単位の金を稼ぐ。だからこそ、熾烈な争いがあり、戦力外通告で球団を去る者が毎年生まれる。高い向上心に尊敬を隠さない。
「正直、やり投げ選手の僕の知名度は、ここにいる皆さんより、よっぽど下ですが、千賀(滉大)さんのような野球界でも有名な方が学びに来る姿勢が素晴らしいなと思っています。どんな人でもレベルが上がってしまうと、自分から学びに行こうなんて、なかなか思えなくなるもの。それなのに、今回はメジャーリーグに移籍するタイミングで、忙しい合間を縫って来ていた。当たり前ですが、僕自身も向上心を忘れない人でいたいと思わされます」(小南)
「ここには向上心がないと来ないし、そもそも(やり投げのトレーニングに)興味を示さないと思います。普通は今までやってきたものをいかに維持していくかを考える。ある種、勇気のいる行動。そういう意味では、僕らは向上心ある野球選手の方しか、お会いしたことがありません」(ディーン)