絶体絶命のピンチ救ったW杯代表候補の連発セーブ 楢﨑正剛「永井選手の自由を奪った」
楢﨑氏から大迫へのアドバイス「うまくいかない経験がのちの成長につながる」
実際には永井の鋭い出足によってボールを奪われ、判断の変更を迫られた。ここで楢﨑氏がポイントに挙げたのは、大迫の足の運びだった。
「GKであればアクシデントが起きることは常に想定していますし、今回は目の前で起きたことなのでしっかりと認識できたはず。大迫選手はボールとゴールの間に入りつつ、永井選手との距離を詰めてシュートコースを限定しました。左右の動きだけでなく前後の動きも入る足の運びが素晴らしく、このシーンにおけるベストの選択だったと思います。
あえて下がって構えるGKもいるでしょうし、それはそれでメリットがあるのでどちらが絶対に正しいとは一概に言えません。ただ、この状況では永井選手の自由を奪ったことがとても大きかった」
セカンドボールへの反応も早かった。森下がトラップしたことでわずかな時間が生まれたとはいえ、ここでも足を動かしながら判断する必要があった。
「大迫選手としては常に動きながら行わなければいけない守備で、最後は間に合わないのでダイビングする形になったのでしょう。DFもカバーに入っていたので、自分から遠いコースは味方にある程度任せるという判断も働いたと思いますし、守備陣として協力して守ることはとても大切。絶体絶命のピンチを救うには、このセーブしかなかったと思います。
DAZNで解説をしていた佐藤寿人さんが『足が動いている』と話していましたが、それはGKにとってすごく大事なポイントです。ダイビングやジャンプといった動作も大切ですが、それ以前に足が動かないと元も子もありませんから」
この試合、広島はスコアレスドローながらアウェイの地で勝ち点1を持ち帰ることに成功。直近のゲームで川崎フロンターレに0-4と大敗していた悪い流れを断ち切り、大迫は連敗回避の立役者となった。
7月のEAFF E-1サッカー選手権2022にも日本代表の一員として出場し、第2戦の中国戦でも完封した大迫。着実に成長しているように見えるが、昨夏に開催された東京オリンピック2020ではメンバー入りしながら出場機会は訪れなかった。湘南ベルマーレのGK谷晃生に定位置を譲る形で2番手に甘んじるという苦い経験を、今後の成長につなげたい今シーズンでもあった。
幾多の修羅場をくぐり抜けていた一方で、控えGKの立場で過ごした時間もある楢﨑氏が大迫の心境を読み解いた。
「東京五輪に関しては、直前まで『自分が(正GKに)一番近いところにいたのに』という思いがあるでしょうし、ベンチから試合を見ているのは正直とても悔しかったはず。でもサッカーにはワールドカップ(W杯)という最高峰の舞台があります。リーグ戦での出番から遠ざかった時期があったように、もしかしたら自分を責めるようなポイントがあったのかもしれない。
ただ個人的にはそういった経験すべてが力になると思います。僕自身、うまくいっているよりも、うまくいかない経験がのちの成長につながったと思える経験がある。謙虚に努力できるタイプならもっともっと成長できるはずなので、このままJリーグでコンスタントに経験を積んで大きな舞台に立てる選手に成長してほしい」
今年11月に開幕するカタールW杯の日本代表候補にも名を連ねるが、息の長いGKというポジションにおいてはキャリア序盤に過ぎないだろう。広島の育成組織で頭角を現してトップチームでも足場を築きつつある大迫敬介が、日本の正守護神としてゴールマウスを守る日が訪れるかもしれない。