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「恨みを残さない」サッカーの不文律 一触即発→“談笑”、スペインで見た驚きの光景

デポルティボの練習場で見た喧嘩腰の選手たち

「ピッチで起きたことはすべてピッチで収める」

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 それはスペインやイタリアだけでなく、南米各国などサッカーにおける一つの不文律と言える。

 この不文律が生まれた理由は、ピッチ内での闘争が想像以上に激しく、お互いの憎悪を生みかねないところにあるだろう。プレー中は相手より有利に立つため、審判を欺くような行為も平然と行われる。最近はVARの導入によってめっきり減ったが、見えないところで相手を小突いたり、蹴ったり、削ったり、中には急所を握りつぶすような行為もかつてはあった。

 サッカーはコンタクトプレーが基本にある。常に一触即発の状態。相手から際どいタックルを受けたら、報復したい、という悪意が生まれることもある。ピッチの中は戦争に近い。

 もし、そのやりとりを試合後まで引きずったら……。暴力事件に発展してもおかしくないだろう。その連鎖を断ち切るため、「ピッチで起こったことはすべてピッチで収める」という暗黙の掟がある。サッカーというスポーツにおける自己防衛手段の一つで、オンとオフをはっきり分けているのだ。

 ありあまる闘争心は、好ましくはないが、否定すべきでもない。お互いが協調して戦うことが本筋にはあるわけだが、切迫した心理はその境界線を時に越える。仲間に対し、叱咤に似た怒号にもつながる。

 2000年代、小さな港町のクラブながら欧州中のビッグクラブを次々に倒していたデポルティボ・ラ・コルーニャの練習を筆者は取材しているが、思わず目を疑った。紅白戦で選手は喧嘩腰で、つかみ合いにまで発展した。驚くべきことに、監督以下スタッフが「殴り合いは禁止」としながら、そのギリギリのテンションを求めていた。

 練習が終わった直後、デポルの選手たちは熱が冷めない様子だった。しかしロッカールームから出てくると、喧嘩同然だった選手が笑い合っていた。ピッチで起こったことをピッチで収めていたのである。

 彼らは掟を守っていた。それだけの修羅場を乗り越えているからこそ、ジャイアントキリングもやってのけられたのだろう。

 これは文化の違いも大きい。

 日本人は意外にも感情的になりやすく、言い方は難しいが、本気で腹を立ててしまう。「プレーの中での単なる摩擦」と考えず、わだかまりがどこかに残る。オンとオフを使い分けられる、合理的な考えの持ち主は少ない。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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