高梨沙羅らの魅力を伝えた小冊子「美翔女」 元選手の編集長が語る10年間と休刊の理由
目指したのは女子ジャンパーの「見たこともない姿」
創刊号は、そのシーズンにナショナルチームに入っていた全選手の顔写真とコメントだけで作る質素なものだった。完成まで約2か月かかったが、「嬉しかったです」と構想が現実になったことの喜びがこみ上げた。
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山田さんのカラーを前面に出したのは、2冊目からだった。『美翔女』の方向性は、決まっていた。
「スキージャンプを専門に伝えるものではなくて、スキージャンプを知らない人たちが見て興味を持ってくれるようなものを作りたいと思っていました。こんなかわいい子たちがあんな高いところからジャンプを飛ぶんだっていうのを知ってもらいたい。そう思っていました」
ジャンプの技術を深堀りしたり、選手の努力を伝える記事は「他媒体にお任せする」と割り切った。その代わりに誌面を飾ったのは、女子ジャンパーたちの見たこともない姿だった。
「ほぼ最初からやったのは、我々は“グラビア”って呼んでいたんですが、女の子たちに、普段着ないような洋服をスタイリストさんに選んでもらって、かわいい格好をして、モデルさんみたいに写真を撮るページです。2冊目からは、必ずやっていましたね」
ジャンプは競技中、ゴーグルで顔が隠れ、素顔を見てもらえる場面は限られる。ジャンプ場では見られない等身大の彼女たちやプライベートの魅力に迫ると、女子ジャンプに興味がなかった人が関心を示した。山田さんだからこそできる企画だった。ちなみに、最初に“グラビア”に登場したのは中学1年生の高梨沙羅で、「ナショナルチームの一員だったということと、今後への期待も込めて」というのが理由だ。今では、高梨のルーキー時代の写真や歩みを知れる、貴重な資料にもなっている。
想像以上の反響があったが、競技が知られていなかったからこそ、山田さんは期するものがあったという。
「だからこそ、やりたかった。1冊でも人に渡すことで、その1人は知ってくれるという思いだけでしたね」