「私が高梨沙羅に惹かれた理由」 12歳から追い続けた写真家が知る、儚さゆえの美しさ
撮影を通じ高梨の“素”に触れる日々、ギャップも魅力
予想もしない高梨の大ジャンプは、大橋さんの脳裏に鮮烈に刻まれた。
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「その時のスキージャンプの音、風切り音ですとか、着地の衝撃音がはっきり残っていて。今もスキージャンプの音ってすごく好きですね」
大橋さんは、ジャンプという競技そのものにも一瞬にして、引き込まれた。
山田さんとの会話は熱を帯びた。
「『いやいやいや、凄いね、あの子』みたいな話を山田さんにしたら、『たぶん近い将来、あの子は絶対、世界で活躍する選手になる』って、その時、言い切っていたんですよ。だから、写真を撮っていたら何かいいことがあるかもよって言われた気がしますね(笑)。変な表現かもしれませんが、スキージャンプって本当に空を飛んでいるんだなって思いましたね」
女子ジャンプはまだ五輪開催どころか、ワールドカップ(W杯)すら行われていなかった時代。大橋さんは狐につままれたように、高梨の撮影を続けることになった。
その後、定期的に高梨のドキュメンタリー写真も担当することになった大橋さん。距離は自然と縮まっていった。
実際に接してみると、新しい発見が次々とあった。
「高梨選手も『女子ジャンプを知ってほしい』ということを本当に若い時から、ずっと言っていたと思うんですよ。山田さんしかり、先輩たちが積み上げてきた道を皆さんに見てもらいたいっていう感覚はずっとあったと思う。スキージャンプって個人競技じゃないですか。なのに、そういうビジョンを、しかも、だいぶ年の離れた女の子が持っているというのが、すごく衝撃的で。本当にスキージャンプが好きなんだなーっていう印象も受けたし、小さい体に抱えすぎてきたかなーっていう気も近くで見ているとするんです。ただ、それは彼女がしたいからしているだけで、誰かに言われているわけでもない。そういう部分に、私はすごく惹かれた気がします。なんかすごく人間らしいんですよ」
高梨は取材でも、ことあるごとに先輩ジャンパーへの感謝の気持ちを口にしてきた。やがて女子ジャンプが五輪に採用されることが決まった後も、その部分は変わらなかった。素直すぎるくらい純朴な性格。大橋さんにとっては新鮮な驚きだった。
懸命に飛び続ける姿を見て、大橋さんの胸にこみ上げたのは「儚さゆえの美しさ」に似た感情だった。
「アスリートに儚いって言葉を使ったら正しいのかどうかは分からない。ただ、私の心の中でそんな思いを感じることもありましたね」