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東京五輪17日間の光と影 罪なきアスリートに及ぶ人権侵害、照らされた世界の現実

亡命したベラルーシ選手、苦しんだ独裁と人権侵害を五輪でようやく知った

 陸上女子ベラルーシ代表のクリスツィナ・ツィマノウスカヤ選手のポーランド亡命のニュースは、国内外のメディアを騒がせました。チーム側が女子1600メートルリレーの参加に必要なドーピング検査を十分に行わず、複数の同僚が出場資格を得られなくなり、代わりにツィマノウスカヤ選手をリレーにエントリーした、と彼女はSNSで告発しました。

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 これに対し、ベラルーシ選手団幹部はツィマノウスカヤ選手にSNSの投稿を削除するよう命じ、さらに彼女を強引に帰国便に乗せようとしました。ツィマノウスカヤ選手は「このまま帰れば投獄される」とIOCに亡命を申請。ポーランド政府がこれを受け、難民として彼女を受け入れました。同国がずっと苦しんできた独裁と人権侵害を、私たちはオリンピックを通してようやく知ることになりました。

 陸上女子走り幅跳びで世界新記録で優勝したユリマル・ロハスの出身国ベネズエラは、近年極度の政情不安と経済破綻に苦しんでいます。彼女が勝った時、母国の人々に与えた勇気とプライドは計り知れないものだっただろうと想像しました。

  難民選手団代表も、前回のリオ五輪と比べて約3倍の29名が派遣され、彼らの置かれている状況、そして凄まじい苦境を乗り越えてきた難民アスリートの姿があちこちで報道されました。

 シリア難民としてトルコからギリシャに渡るボートがエンジン・トラブルに遭い、姉と一緒に海に飛び込み、3時間半ボートを押しながら泳いだ競泳のユスラ・マルディーニ選手。リオ五輪のイラン代表銅メダリストで、今回、難民選手団代表として出場したテコンドーのキミア・アリザデ選手。彼女は五輪を2連覇しているジェダ・ジョーンズ選手を破りましたが、残念ながら、4位に終わりました。

 7月23日の開会式では、シリアのトライアスロン代表の兄モハメド・マソ選手と難民選手団競泳代表の弟アラー・マソ選手がスタジアムで再会。その時の2人の抱擁は、彼らのSNSから世界中に拡散され、話題を呼びました。

 私も今まで勤務してきた発展途上国で、スポーツに打ち込むアスリートたちの姿に心を打たれてきた一人ですが、スポーツを取り巻く環境は、決して平等ではありません。スポーツで記録を伸ばしたい、実力を発揮したい、栄光を掴みたい、楽しみたい気持ちは同じなのに、たまたま生まれてきた場所が違うだけで、競技を続ける環境がない人々。競技で活躍して国外に出て、生計を立てることを夢見る少年少女も少なくありません。

 その人たち、子どもたちにこそ、スポーツが果たす役割は偉大です。生きる力になり、夢を与え、日々の苦しみを和らげる。難民や、人権を侵害され続ける人々の、人間としての尊厳を見せつけてくれる。そんなスポーツの持つ価値も、今回のオリンピックはリマインドしてくれました。

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井本 直歩子

3歳から水泳を始め、小学6年時に50m自由形で日本学童新記録を樹立。中学から大阪イトマンに所属。近大附中2年時、1990年北京アジア大会に最年少で出場し、50m自由形で銅メダルを獲得。1994年広島アジア大会では同種目で優勝する。1996年、アトランタ五輪に出場。千葉すず、山野井絵理、三宅愛子と組んだ4×200mリレーで4位入賞。2000年シドニー五輪代表選考会で落選し、現役引退。スポーツライター、橋本聖子参議院議員の秘書を務めた後、国際協力機構を経て、2007年から国連児童基金職員となる。2021年1月、ユニセフを休職して帰国。3月、東京2020組織委員会ジェンダー平等推進チームアドバイザーに就任。6月、社団法人「SDGs in Sports」を立ち上げ、アスリートやスポーツ関係者の勉強会を実施している。

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