部活改革の選択肢にアスレチックトレーナーを 教員負担軽減のためにも提案したい一手
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「部活改革にアスレチックトレーナー導入の提案」。
連載「Sports From USA」―今回は「部活改革にアスレチックトレーナー導入の提案」
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「部活改革にアスレチックトレーナー導入の提案」。
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私が初めて米国の公立高校で働くアスレチックトレーナーの記事を書いたのは10年ほど前のことだ。その時、入手した資料をもとに、米国にはおおよそ4割の学校にアスレチックトレーナーがいると記述した。
しかし、2015年に「ジャーナル・オブ・アスレチック・トレーニング」に発表された「Athletic Training Services in Public Secondary Schools: A Benchmark Study」によると、全米50州とワシントンDC地区で調査に応じた8509の高校のうち、5930校からアスレチックトレーナーがいるとの回答があったという。全体の70%が何らかの形でアスレチックトレーナーを雇用していることになる。内訳はフルタイムが37%、パートタイムが31%、日雇い形式が2%だった。
この調査の導入部分には、米国では、NATA(全米アスレチックトレーナーズ協会)や米小児科学会など、複数の組織が、すべての高校に少なくとも1人のアスレチックトレーナーの採用を推進してきたことが書かれている。
アスレチックトレーナーがいない場合は、運動部の指導をする教員やコーチが応急処置にあたらなければいけない。米国では学校運動部の指導者に対し、応急処置の講習を義務付けている州はほとんどだが、それでも指導者は、専門的な教育を受けているアスレチックトレーナーには及ばないだろう。それに、試合中に怪我をした生徒がいた場合には、コーチは、その生徒の応急処置をしながら、試合も見守らなければならないことになる。
だから、怪我の予防や処置、診断のために専門職がいたほうがよい、と多くの人が考えている。問題はアスレチックトレーナーを雇用するためのお金をどのようにひねり出すかだ。公立高校では、学区の教育予算をどのように分配するかに関わってくる。
アスレチックトレーナーの雇用を求め、予算を分配してもらうための主張として、「アスレチックトレーナーを雇用すれば、結果的に医療費の削減になる」というものがある。
アスレチックトレーナーのいる学校と、そうでない学校の生徒の健康保険のコストを比較し、アスレチックトレーナーのいる学校では、低所得世帯向けの公的保険の利用者が年間通じて1人あたり64ドル(約6960円)の節約ができたという調査結果もある。
怪我を予防することによって医療費を削減できることもあれば、アスレチックトレーナーの応急処置を受けられることで時間外の救急に駆け込まずに済んで、翌日の通常の診察時間に専門医の診断と治療を受けるケースもあるだろう。
また、運動部活動で怪我や重大事故が発生した場合は、学校は適切に運営や指導してきたかの責任を問われるし、訴訟にも備えなければいけない。