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日本と米国の運動部はどちらが教育的か トライアウト制の米国が子どもに教えること

米国のトライアウト制に見出す教育的価値

 こういった米国のビジネス界の傾向が、トライアウトに教育的価値を見出すこととつながっているのではないか、と私は思う。

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 たとえば、野球チームのトライアウトに、非常に優れた捕手がやってきた。この野球部には優れた捕手が3人いたが、トライアウトにやってきた捕手は、明らかに3番手の捕手を上回る能力を持っていた。だから、この3番手の捕手をチームから「カット」した。

 しかし、3番手の捕手も下手というわけではない。他の野球チームにいけば、正捕手として活躍することができるかもしれない。カットされた後に、新たに技術をつけるか、長所をさらに強化して、別の強いチームに入るチャンスもまだ残されている。

 トライアウトによって居場所を勝ち取る訓練、もしくはカットされたときに、どう対応するか経験をしておくことが、大人になってビジネスの世界に入っていくときに役立つと考えられているのではないだろうか。

 また、日本の運動部では、人格形成、人間性を磨くことを目的とし、スポーツそのものが後回しになっているという話を聞くことがある。それに比べると、米国でも子どものスポーツにおける人格形成は謳われているものの、スポーツの能力が重視されているといえるかもしれない。

 しかし、これもまた、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用という、雇用形態とつながっているのではないかと、私は感じている。

 これまでの日本でよくみられたメンバーシップ型雇用は、新卒で一括採用し、会社に入ってから、その人に合う仕事を割り当てていくものだ。

 米国に多いジョブ型は、あらかじめ仕事内容や責任、給与を細かく明記した職務記述書にもとづいて募集をかける。応募する側は、自分の専門能力や知識と希望する条件にあっているかを考慮したうえで採用試験なり、面接なりを受ける。

 これが運動部にもあてはまるのではないか。日本の公立校の運動部では、入部希望者全員を受け入れる。競技能力が劣っていても、補欠の重要性を説いたり、マネジャーの仕事を任せたりして、その生徒や学生に合う役割を与えていることも少なくないだろう。しかし、米国の運動部は、ジョブ型雇用がそうであるように、その運動部に必要な競技能力を持っているかという見極めから始まる。子どもたち側も年齢が上がってくると、このような状況を理解していて、未経験者や運動能力に自信のない生徒の多くは、恐らく落ちてしまうであろうトライアウトに参加することさえしていない。自分の能力や専門性と、募集内容が一致していないからだ。

 日米のどちらのほうがよりよい方法かを私は判断することはできない。日本のやり方も度が過ぎると、集団のなかで与えられた役割をやり抜くことだけが評価され、スポーツの楽しみを味わえないまま、運動部活動を終えてしまうかもしれない。逃れられない人間関係の苦しみもあるだろう。

 米国のスポーツは、能力主義のなかで、小さいときからいつクビになるかわからない重圧にさらされ、意欲をすり減らされてしまった子どもも少なくない。

 日米の運動部のうち、どちらの運動部が教育的なのか。私は、どちらも大人の社会に適応するために必要な経験をさせるという点で似ていると思う。そして、ときには、どちらの国でも、大人の社会に厳しさに適応するためという大義名分による教育的価値をスポーツに押し付けているようにも感じる。

(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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