なぜ、米国は公立中学・高校でもアメフト部ヘッドコーチの指導者報酬が一番高いのか
ある学校区のアメフト部HC報酬はシーズンあたり1~4年目で55万円、20年以上で75万円
時間外業務として、課外活動の指導を担う教員に、一律に報酬を支払うのではなく、仕事の軽重に応じて、指導報酬を支払っている学校区が多い。私が行き当たった資料では1960年頃から、時間外業務に対する報酬は一律ではなく、仕事量や仕事の質によって決めようとする試みがなされていた。その当時、インディアナ州サウスベントで議論された資料には、労働時間だけでなく、その時間外業務には特別な免許や資格が必要か、学校を離れて仕事をしなければいけないか、新しいことを立ち上げる必要があるか、など20項目以上を報酬金額算出の要因としている。
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中学や高校のアメリカンフットボール部のコーチは、他の運動部のコーチに比べて、指導する選手数が多く、練習や試合準備に必要な時間、シーズンの期間もほかの運動部に比べて長いことなどが、報酬額に反映されているのだ。
例えば、メリーランド州のモンゴメリー学校区は、高校男子サッカー部の指導に必要な時間は250時間、高校女子ソフトボール部の指導に必要な時間は298時間、高校アメリカンフットボール部のヘッドコーチの指導に必要な時間は399時間と規定。アメリカンフットボール部のヘッドコーチは、労働量が最も多いので、時間外業務の報酬も、他の運動部よりもやや高い金額になるというわけだ。この学校区は、それぞれの報酬額は公表していないが、時間数と仕事の種類によって金額を定めていることが見て取れる。
インターネット上で教員報酬を公開している米バージニア州のベッドフォード カウンティ学校区の例を見てみよう。
ここでも高校アメリカンフットボール部のヘッドコーチ報酬が最も高く、1年目から4年目までは5176ドル(約55万円)、20年以上の経験があるヘッドコーチだと7000ドル(約75万円)を超える。男子サッカー、女子ソフトボール部のヘッドコーチは1年目から4年目までは2518ドル(約27万円)、経験20年以上だと3540ドル(約38万円)となっている。この学校区でも労働の時間、指導しなければいけない人数などを考慮したものと推測できる。
また、アリゾナ州メサのメサカウンティバレー学校区では、アメリカンフットボール部とバスケットボール部のヘッドコーチは最高で6386ドル(約72万円)、野球、サッカー、陸上、バレーボール部などのヘッドコーチは最高で6175ドル(約65万円)、ゴルフ、テニスの部のヘッドコーチは最高で5330ドル(約56万円)となっている。これも労働時間や労働量を反映したものだ。
ここで紹介した金額は、シーズンあたりのもので、3~4か月間の仕事に対して支払われる。1か月あたりだと1000ドル(約10万5000円)から2000ドル(約21万円)程度だろう。
教員の給与は、同じ量の仕事をすることを前提に決められているが、実際にはそうではない。米国の公立中学校や高校では、教員間に不満がでないよう、仕事量と責任に見合った報酬を定めるようになっている。しかし、大学のアメリカンフットボール部コーチのように学長の給与を上回ることはない。それは、教員が授業を教えるのが仕事で、運動部の指導は副次的なものであるという位置づけから、教員としての年俸の1割程度になっている。
最後に、子どものスポーツを見ているとなぜ、熱くなるのか、保護者は子どものスポーツにどう関わればよいのか、指導者と保護者はどのように対話すればよいのか、米国のスポーツペアレンティングをもとにした内容をまとめた本を出版しました。
「なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ」(生活書院)です。子どものスポーツをよりよいものに願う保護者、指導者・運営者の方のご参考にしていただけると幸いです。
(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)