「子供は大人の夢を叶える道具ではない」 夏の大会中止で考え直すべき「部活」の意義
「スポーツに長け、世界に羽ばたくことを期待しすぎる保護者、指導者が多い」
――今、仰った「子供たちは大人の夢を叶えるための道具ではない」は子供に関わる大人すべてにとって本当に大切な視点です。
「何のためのスポーツか、何のためのクラブ活動か、みんなでこの機会に考え直してみるのはどうでしょうか? スポーツを通じて、子供たちに何かを教えてあげることが目的のはずが、今はそのスポーツに長けて、日本代表になって、世界に羽ばたくようなことを期待しすぎている保護者、指導者が多い。オリンピアンになれるのは競技者の0.01%以下。子供に期待しすぎていないか、都道府県で1位になることがそれほど子供の人生に影響を及ぼすのか、考えてみてほしいです」
――荒木さんご自身は高校時代、陸上競技短距離種目で京都府大会で優勝されています。
「それ自体は、今と全く関係ないんです(笑)。京都府の新記録を出したこともありますが、あの時に記録が出なかったら人生が変わったかというと、あまり変わってない気がします。それより覚えているのは、先生に言われた言葉、一緒に仲間と過ごした時間。その経験は財産なので。今、試合がなくなってほっとしている選手もいるかもしれません。高校生であれば、きっと私もその一人でした。でも、陸上競技に限って言えば、記録が伸びたかどうかは先生に計ってもらえれば分かります。変なプレッシャーから解放され、純粋にスポーツを楽しめる子たちもいる可能性があるので、大人は考え直すいい機会かもしれません」
【荒木氏が「オンラインエール授業」で熱弁】
荒木氏は6月24日に行われた「オンラインエール授業」に登場し、全国の部活指導者に講義を行った。この授業は「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開され、インターハイ実施30競技の部活に励む高校生をトップ選手らが激励し、「いまとこれから」を話し合おうという企画。1時間の授業では、コロナ禍における生徒との向き合い方から、日頃のスポーツ指導における悩みまで、多岐に渡ってディスカッションが行われた。
あるサッカー部の顧問から「ミーティングで間違ってもいいから考えを発信してほしいけど、いざ聞くと固まってしまい、自分の言葉で表現すること、何かにチャレンジすることにためらい、消極的な生徒が多い。どうすれば、子供の自主性を引き出すことができるか」という質問が飛んだ。荒木氏は「それは、日本の文化だと思う。恥ずかしいこと、間違っていること、失敗することが良くない。私たちはそういう環境で育ってきて、そのままスポーツに反映されている気がする」とし、アドバイスした。
「スポーツは毎日練習することによって、できなかったことができるようになり、スキルを習得していくことが嬉しくて楽しくて、スポーツを継続したいと思える。ただ、私たち大人も全員失敗を経験しながら、ここまで来ているわけじゃないですか。『失敗すること=ダメなこと』じゃなく、失敗したらチャンスとまでは言わないですが、次につながる。『失敗で終わり』じゃなく『失敗から始まる』というイメージ。そういうところから“失敗する勇気”を持てるように雰囲気作りをしてあげてほしい。一人でも失敗して怒られると『ああ、いけないことなんだ』と思い込み、試合中も指導者の顔を見るようになっては可哀想なので。
『○○と○○をすれば修正できる。だから、今、注意を向けるところは○○と○○だ』と的確に説明してあげると子供も楽。あとは、失敗した時に共通した言葉を作ってあげることもいい。すぐに前を向くなら『前!』とか、なるべく短くて分かりやすい言葉。その言葉が子供たち全員から自然と出てくるようになれば、失敗も一つクリアできる。上手くいくためのキーワードと失敗した時のキーワードを子供たちと作り、それを部の文化としていけば、3年間、1~3年生まで練習中も試合中も実践できれば、“失敗する勇気”が持てて、チャレンジできる雰囲気作りの助けの一つになると思います」
未曾有の事態に戸惑いが広がっていた指導現場。授業に参加した指導者からは「もっともっと勉強して生徒に役立てたい。生徒に寄り添い、一人でも多くの笑顔が見られるように頑張りたい」と前向きな声が上がっていた。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)