もし、部活中に選手が大怪我をしたら… スポーツ事故訴訟で問われる「安全配慮義務」
勝利至上主義がスポーツ事故のリスクを上げる
そして、不幸なスポーツ事故が誘発される背景には、勝利至上主義と熱くなりすぎる指導者や保護者の存在があるとも指摘する。
「子どものためによかれと思って、強くなってほしい、勝たせたい、成功体験を味わわせたいという気持ちが行き過ぎて、事故リスクが上がることが多いと考えています。大きな怪我をした後に『子どももやりたいと言っていたのだから問題はなかった』と言っても、取り返しはつきませんし、法廷では通用しません。
子どもを取り巻く不幸なスポーツ事故や係争を防ぐためには、『この子にとっての“スポーツの価値”とは何なのか』を改めて問うことが必要です。勝つことだけを目指すのではなく、子どもの長い人生の中でスポーツとは何なのか。その価値をとらえ直すことが、これからの指導者や保護者に求められているといえるでしょう」
(※1)AED 自動体外式除細動器。何らかの原因で血液を送る機能を失い、心室細動を起こした心臓に電気ショックを与え、正常な鼓動のリズムを回復する装置。医療従事者ではない一般市民でも使用できる。多くの公共の場に設置されている。
(※2)エマージェンシーアクションプラン(緊急時対応計画) Emergency Action Plan、EAPとも。文字通り、練習や試合での怪我や体調不良など緊急時に誰がどのようにどんな対応を行うかをあらかじめ取り決めて書き出しておく計画のことを言う。計画に記載しておくべき項目として、緊急時の責任者、その連絡先、AEDや救急キットの準備・設置場所、最寄りの救急医療機関の住所・連絡先、会場見取り図(救急車まで怪我人を運ぶルートの確認)、など。練習と試合の会場が異なる場合は、会場ごとに用意しておく。NPO法人スポーツセーフティージャパン、公益財団法人AED財団などが緊急時の対応やEAPの作成方法を学ぶ講習会を開いている。参考:https://aed-zaidan.jp/aed-project/news/sports/20200525.html
■堀口 雅則 / 東京21法律事務所 弁護士
1979年生まれ、神奈川県出身。海城高等学校を卒業後、筑波大学社会学類に進学。在学中は体育会合気道部に所属するかたわら、学生会の議長としても活躍。卒業後は首都大学東京法科大学院に進学。司法試験合格後は東京21法律事務所に入所し、スポーツ弁護士の草分けである長嶋憲一弁護士の下で経験を積む。今年で10年目を迎える。現在、日本バスケットボール選手会、日本ラグビーフットボール選手会の顧問弁護士として主にスポーツ法務の分野で活躍中。最近はコロナ禍のため、自宅で筋トレに励む。
(記事提供 TORCH)
https://torch-sports.jp/
(はたけ あゆみ / Ayumi Hatake)