もし、部活中に選手が大怪我をしたら… スポーツ事故訴訟で問われる「安全配慮義務」
スポーツ事故の係争例に見る「安全配慮義務」が尽くされたかどうかの判断
近年発生したスポーツ事故の係争例を見てみよう。
2018年に、ある私立高校のチアリーディング部の女子部員が練習中に大怪我を負い下半身不随の後遺症が残るという事故が発生した。学校側の安全対策が不十分だったとし、元女子部員が学校法人に約1億8000万円の損害賠償を求めたことがニュースでも報じられた。
「このケースでは、被告である私立高校を運営する学校法人(公立校の場合は学校を設置している地方自治体)が支払い義務を有します。損害賠償金は学校が加入している保険(災害共済給付制度、スポーツ保険など)である程度賄われるため、被害者に支払われないということはあまりありません。金銭的な補償は問題なく受けられるにもかかわらずなぜ訴えを起こすかというと、『なぜこの事故は防げなかったのか』を明らかにしたいからなんです」
別のケースを見てみよう。2009年のある県立高校の剣道部の事例。厳しい練習中に男子部員の「もう無理です」という訴えが受け入れられず、(体調不良による行動は)「演技だろう」などと言われて練習を続けた結果、熱中症で死亡に至ったという痛ましい事故があった。
「この事案の争点は、『安全配慮義務が尽くされていたかどうか』でした。道場の状況はどうだったか、熱中症は回避できたのか、本人が倒れたときに指導者はどういう対処をしたかを、裁判所でも細かく確認されました。顧問の先生(指導者)は道場に扇風機や飲み物を用意していましたが、水分補給が適切なタイミングでされていなかったこと、本人の訴えを無視して練習を続けさせたことなどから、安全配慮義務を怠ったという結論になりました。
熱中症の死亡事故はほかにも、ある高校の相撲部でも起きました。水はいつでも飲むことができ、窓を開けて風も吹いている環境であったことや、当日の稽古の状況などを詳細に認定し、先の県立高校剣道部のケースとは異なり、こちらは安全配慮義務を尽くしていたと認められ、顧問の先生の責任は否定されています」
同じ熱中症での死亡事故でも、裁判所の判断は異なり、裁判所では、当時の状況やできるはずの対処を行っていたかどうかを細かく聴取し判断された。