子供はどう褒めれば伸びるのか 元オリンピック選手と考える“教える”の価値
子供はどう褒めれば伸びる? 「ティーチング」と「コーチング」の関係性
山口「私は英語教育を30年前に始めました。次に“コミュニケーションと感性”という時代が今、来ていると思うんです。私が目指しているコミュニケーションは、最初に会って相手を知る、そして、終わった後に会って良かったと思える形。それは、どうしたらいいか十数年やってきてある程度、辿り着きました。ただ、一つ迷っていたのが、『褒める』をどう捉えるかについてです。私は『褒める』は有りだと思っています。心理学者のアルフレッド・アドラー博士は『褒める』にこだわっていて、褒めることは上下だから対等じゃない、『偉いね』と言うのは上からになるので肯定しないのです。
私もこだわりがあり、どうなんだろうとずっと考えてきました。もちろん、褒めないより褒めた方がいい。ただ、どう褒めるかを考えると、上からじゃない形がいいのかなと。スポーツもその辺りがすごく難しい部分じゃないでしょうか? どう褒め、評価したら伸びるのか。最終的に、本人のモチベーションにつながるような褒め方をしないといけないことは共通としてあるのかなと。ただ、褒められなくても意欲が自発的に沸き上がってくる状態に持っていかないといけない。そのために今どきの子供たちの褒め方には何に気をつけて、どう接していけばいいのか。どうお考えなのでしょうか?」
伊藤「僕らもその辺りはやはり、すごく意識しますね。スポーツでは『ティーチング(相手に答えを教えること)』と『コーチング(相手の中にある答えを引き出すこと)』があって、このバランスがすごく重要です。何も知らない子供にいきなりコーチングをしても何にもならない。ある程度のティーチングも必要で、ただし、それも行き過ぎると先生の指示に従うだけとか、厳しい部活のような状態になり、最終的に自走できるような人間にならないと思います。だからこそ、良いティーチングとコーチングを行き来しながら指導するのが理想と考えています」
山口「ティーチングとコーチングと言われ、すごくピンときました。教育界はまさにそれです。『アクティブラーニング』が流行り、全部そうしようとしているけど、基礎がない子にはできません。うちはリズムに合わせて基本的な文章を身につけて覚えた英語を使いましょうというやり方をしています。ところが一般的に覚えるところを飛ばして“英語は楽しく使うものだから”と、ティーチングが否定されている。『こういう教育がいい』という高校、大学で生まれると、小学校からみんなそうなってしまう。そこに向かうための順番があるはずです。基礎をしっかり教える、繰り返し身につけるという部分を飛んで、全部が一斉にアクティブラーニングに向かう。それがおかしなところで、日本の教育の現状です」
伊藤「基礎のところにも興味を持ってもらいたいですね。そのためには、動機付けなどが必要と思っています。子供のかけっこでは、僕が指導に行くと、五輪選手が来るということで、その時点で興味を持ってもらえますが、それ以上に取り組んでみて楽しかったり、僕が走った姿を見てあんな風になりたい、少しでも足が速くなりたいと思ってもらいたい。哲学者のプラトンは優れた人を見ると“感染的模倣”が起きると言っていますが、何かに影響されて、真似したいという強烈な動機付けになる。それは、プラトンの古代ギリシャの時代から言われていることで、僕自身もきっかけを与えられる存在になりたいと思ってやっています」