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「子どもは大人のミニチュアではない」 格闘技ドクターが語る、スポーツ指導者の誤解

胸や背中を打って意識を失う「心臓震盪」には迷わずAEDを

 子どもが倒れて意識を失った。どうも呼吸も怪しいとなったら、救急車を呼ぶと同時にすぐAED(※4)を準備します。AED(自動体外式除細動器)は不整脈が起きている心臓に電気ショックを与え、正常なリズムに戻す医療機器です。普段AEDを扱っていないとその使用にあたり不安になる方も多いかと思います。でもそれはAEDが自動的に判断してくれるので心配はいりません。

 AEDを装着すると自動的に心臓の状態を電気的に解析し、AEDが必要な場合は「電気ショックが必要です」といった感じで音声ガイダンスで指示が流れます。この「AEDが患者さんの状態を解析する」機能は、意外と知られていないんです。中には「AEDを装着したらすぐ電気ショックが始まるのでは……」「間違って電気ショックを与えたらかえって悪化するのでは……」と誤解している方もいらっしゃるようです。

 医療者、看護師、救急救命士、ライフセーバーといった職種でもない限り、AEDに日常的に触れる方のほうが少ないわけですから、それらの誤解や不安も当然ですが、「迷わずAED、迷ってもAED」ということでAEDに解析・診断をさせたほうが得策です。必要ない場合は、「電気ショックは必要ありません」とアナウンスされますので。

 わずか3分対処が遅れるだけで救命率は大きく下がります。救急車が到着するまで平均で7分ですが、その間に適切な対処を行えば、多くの子どもの命が助かります。心臓震盪が疑われる時はとにかくすぐAEDを装着してください。普段からAEDがどこにあるのか、把握しておくとよいでしょう。「スポーツ現場にはAED、心臓震盪が疑われる場合は迷わずAED」を覚えておいてください。そしてそれ以上に大切なのは「AEDがあれば大丈夫」と曲解や過信を絶対にしないことです。

「AEDは使いこなせるが、使う機会はゼロを目指す」これが本当のゴールであり、「予防に勝る治療無し」はスポーツに関わる全ての皆さんと共有されるべき意識だと思います。野球での「半身を切ってボールをキャッチする指導」であったり、サッカーでの「ヘディング制限や胸トラップの制限」であったり、直接打撃制空手での「子どもはポイント制を導入とディフェンスの評価」といった各スポーツでの創意工夫を含め、子どもの身体から発想した「スポーツの再構築」の萌芽がみられています。

 今回は、「子どもは大人のミニチュアではない」の観点から、子どもに起きうる危険な病態について解説させていただきました。前述のように、世界は子どもの安全と健やかな成長に主眼を置いた「キッズ・ファースト」「ライフ・ファースト」な方向性でスポーツを捉えており、現在の潮流となっています。我が国でも、子どもの心身から発想したスポーツのあり方を追求し、子どもたちの人生を輝かせるスポーツ文化になることを願っています。

※1 心臓震盪:ボールがぶつかる、身体がぶつかるなど、外力による衝撃が心臓に加わり、心臓に致死的不整脈が発生し、全身に血液を送るポンプ機能が失われる病態。

※2 第二次性徴:身体と心が大きく成長すること。女子は10歳頃、男子は12歳頃が多い。女子は初潮を迎え女性らしい体つきになり、男子は声変わり、体毛の増加、精通が起こる。

※3 脳震盪:頭部に打撲などの衝撃を受け、一時的に意識や記憶の喪失を伴う症状。軽度の場合、意識消失を伴わないことも。めまいやふらつき、頭痛が発生することもある。

※4 AED:自動体外式除細動器。何らかの原因で血液を送る機能を失い、心室細動を起こした心臓に電気ショックを与え、正常な鼓動のリズムを回復する装置。医療従事者ではない一般市民でも使用できる。多くの公共の場に設置されている。

■二重作拓也 / 格闘技ドクター・スポーツドクター、リハビリテーション科医師、格闘技医学会代表、スポーツ安全指導推進機構代表

 1973年生まれ、福岡県北九州市出身。福岡県立東筑高校、高知医科大学医学部卒業。8歳より松濤館空手を始め、高校で実戦空手養秀会2段位を取得、USAオープントーナメント高校生代表となる。研修医時代に極真空手城南大会優勝、福島県大会優勝、全日本ウェイト制大会出場。リングドクター、チームドクターの経験とスポーツ医学の臨床経験から「格闘技医学」を提唱。専門誌『Fight&Life』では10年にわたり連載を担当、「強さの根拠」を共有する「ファイトロジーツアー」は世界各国で開催されている。『Dr.Fの格闘技医学 第2版』『Dr.F 格闘技の運動学』(DVDシリーズ)『Fightology(英語版/スペイン語版)』『プリンスの言葉』『Words Of Prince(英語版)』など著作多数。格闘技医学会/スポーツ安全指導推進機構公式サイト(https://societyoffightingmedicine.hatenadiary.com/)Twitterアカウント:@takuyafutaesaku

(記事提供 TORCH)
https://torch-sports.jp/

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