「子どもは大人のミニチュアではない」 格闘技ドクターが語る、スポーツ指導者の誤解
子どもの年齢や成長度合いに合わせて、磨くべき能力を見極める
子どもの命と健康を守りながら才能を伸ばすために、成長に合わせた指導を設計しなければなりません。小学生や中学生でピークを迎え、あとは下り坂となってしまいそれ以降は本人が伸び悩みと蓄積したダメージに苦しむ、ということがないように。
ここで、向上する能力と年齢について考えてみましょう。例えば「7歳の子どもに1500メートル走をやらせる」「10歳の子どもに同じ体重の子どもを背負わせて走らせる」。これ、やって大丈夫でしょうか? ダメです。なぜダメかというと、まだ耐えうるだけの心肺機能であったり、筋骨格系の機能や強度が備わっていないからです。
「今はこの機能が飛躍的に伸びる時期」というのが年齢層によって明らかになっています。もちろん個体差もありますが、個体差というのはあくまでも標準ありきの個体差ですので、標準を理解して、個体差を理解していただきたいですね。
脳と神経系統が急速に発達する11歳までは、多種多様な動きを体験させる中で俊敏性を高め、運動機能の向上を目指します。ここで得た運動能力は基本的にどんなスポーツにも役立つものです。次に心肺機能が主に発達する12~14歳では、無理をさせずに「続ける能力」を段階を追って少しずつ上げていきます。走る距離を少しずつ伸ばしていく、回数を積み重ねるというのは、心臓や肺ができあがってくるから可能なわけですね。15歳からは筋・骨格系が発達のピークを迎えます。第二次性徴(※2)で身長が伸びきったタイミングで、まずは自重などの大きくない負荷で筋力を養成していく時期となります。コンタクトスポーツのガンガンぶつかり合うような本気のコンタクト練習も、骨ができあがってからのタイミングが望ましいと言えるでしょう。
身体ができあがる前は、体重移動のスキルを強化するステップワークや、当たってもダメージがほとんどないごく軽いピンポン玉を使用したディフェンス、身体に反作用の無い型の習得など直接的な技の練習や、ガッツリとしたコンタクトよりも「身のこなし」「俊敏さ」といったスピードと身体コントロールを徹底的に高めることに主眼を置きます。まずは「動ける選手になろう」ということですね。
この段階で身体にダメージを蓄積させることなく動きの正確性や多様性をつくっておくことが、将来につながります。いくら子どもが楽しんでいても、子どものうちから身体の壊し合いや、ぶつける練習は可能な限り避けるべきでしょう。
では、運悪く子どもが脳や心臓を打ってしまった場合、まわりはどう対処すべきでしょうか。命が最優先されるべき場面での行動の例をご紹介したいと思います。