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近代五種で5年後のロサンゼルス五輪目指す高校1年生 7月世界選手権で踏み出す夢への第一歩【#青春のアザーカット】

学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、今でもコロナ禍の影響がそこかしこにくすぶっている。

4月から専大松戸高の陸上競技部で走りに磨きをかける石井くん【撮影:南しずか】
4月から専大松戸高の陸上競技部で走りに磨きをかける石井くん【撮影:南しずか】

連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常

 学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、今でもコロナ禍の影響がそこかしこにくすぶっている。

 便利だけどなぜか実感の沸かないオンライン。マスクを外したら誰だか分からない新しい友人たち。楽しいけれど、どこかモヤモヤする気持ちを忘れられるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。

「今」に一生懸命取り組む学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。何よりも大切なものは、地道に練習や準備を重ねた、いつもと変わらない毎日。何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)

23頁目 専修大学松戸高等学校陸上競技部 1年・石井琉之介くん

陸上競技部の同級生たちは石井くんにとって刺激となる存在だ【撮影:南しずか】
陸上競技部の同級生たちは石井くんにとって刺激となる存在だ【撮影:南しずか】

「近代五種」という競技をご存じだろうか。近代オリンピックの創設者であるクーベルタン男爵が、古代オリンピックで行われた五種競技に倣って考案、創設したスポーツで、1人でフェンシング、水泳、馬術、レーザーラン(射撃・ランニング)の5種目を行う。その起源や1日で5種目全てを実施するタフさから「キング・オブ・スポーツ」とも呼ばれ、技術、体力、気力など全てを兼ね揃えた万能性が求められる競技でもある。昨年11月には、2024年パリ五輪を最後に馬術が除外され、新たに障害物レースが加わることが発表された。

 ヨーロッパでは由緒正しいスポーツとして人気だが、日本ではなかなか日常生活で出会う競技ではない。石井くんが入門編とも言える近代3種という競技を知ったのは小学5年生の時、母の友人を介してだった。

 近代3種は水泳とレーザーラン(射撃・ランニング)の3種目で構成される。小学1年生から陸上クラブで長距離を走り、ベビースイミングから始めた水泳はお手の物。さらには「お祭りの射的は得意な方だった」という石井くんが興味を持たないわけはない。

 大会によって水泳やランニングの距離は変わるが、例えば日本選手権の場合、小学生はまず50メートルを泳いでから、50秒間で的に5発当てる射撃と400メートルのランを3セット行う。「最初は大変でした。普通に走るならまだしも、射撃と交互なのでインターバル走みたいな感じで、最後の方は全然腕が上がらなかったり、狙いがグラグラ定まらなかったり。めっちゃ疲れて、結構辛くて『なんだ、このスポーツは』って思いましたね(笑)」。なんだか一筋縄ではいかない感覚が、石井くんの心に火を着けた。

「最初は上手くいかなかったけど、頑張って練習したら上手くいくんじゃないかと思って。1回始めたら、結果が出るまでしっかり続けようとするタイプではあると思います」

野球部入部で気が付いた自分に必要なもの

久しぶりに出場した近代3種の大会で競技への想いを新たにした【撮影:南しずか】
久しぶりに出場した近代3種の大会で競技への想いを新たにした【撮影:南しずか】

 6年生になって初出場したジャパン近代3種シリーズ2019第1戦木曽大会では、小学生男子の部で4位だった。3種目総合タイムは4分12秒で、3位との差はわずか1秒。「もう一歩で入賞できたのに悔しかったです」と話すが、わずか3か月後の第2戦千葉大会では初優勝を飾った。第3戦立川大会とファイナル調布大会でも2位。さらに意欲が沸いてきた矢先、怪我を負ってしまい、陸上クラブを欠席するうちに走ることから気持ちが離れてしまった。

 卒業式が間近に迫った3月には新型コロナウイルスが猛威を奮い始め、晴れて中学生となったものの学校は6月まで休校。ようやく登校できるようになった時、誘われるままに仮入部したのは野球部だった。「初心者だったんですけど先輩からすごく褒められて、野球って楽しいなと(笑)」。

 野球は新鮮で楽しかった。だが、2000年11月、久しぶりに近代3種の大会に出場すると中学生男子の部で5位と健闘したが、小学生とは違うレベルの高さも感じた。優勝を目指すのであれば「体力、持久力、走力の強化が必要」と考え、2年生になる時に陸上部へ転部した。

 一度距離を置いた陸上と改めて向き合うと、それまでとは違った感情と意識が沸いてきた。

「小学生の時は陸上クラブで友達と会ったり、楽しく話をしたりすることがメインでした。正直、走ることは結構辛くて、自主練もあまりしたくなかったくらい。『走るの嫌だな……なんで走っているんだろう、楽しくないのに……』って。でも、野球を始めて、色々なことの見方が少し変わった気がします。やっぱり近代3種を本気でやりたいと思ったし、そのためには陸上もしっかりやりたい。目的も考え方もガラッと変わった気がします」

初出場の世界選手権で4位も「世界で戦うなら…」

レース終盤には疲労でレーザー銃を持つ手が震えるという【撮影:南しずか】
レース終盤には疲労でレーザー銃を持つ手が震えるという【撮影:南しずか】

 競技と正面から向かい合うと、体の成長期と重なったこともあり、グングン記録が伸びてきた。中学2年生で臨んだ第9回近代3種日本選手権大会では中学生男子の部で準優勝。日本代表として世界選手権(U17の部)に出場予定だったが、日本が出場を辞退。悔しさもあったが、気持ちはすぐに切り替わった。

「近代3種だけではなくて、陸上部で専門とする3000メートル、1500メートル、800メートルでも記録が伸びて、記録会で1位になったり、自己ベストを更新したり、駅伝で区間賞をとったり。記録が伸びると楽しくて、次も頑張ろうと思いました」

 3年生になると近代3種日本選手権で見事優勝。再び日本代表となり、ポルトガル・マディラ島で開催された世界選手権(U17の部)に出場すると、世界を相手に4位と大健闘した。

 初めての海外遠征で、飛行機を2度乗り継ぐ長旅。「外国もほとんど行ったことがなかったので怖かったし、海外の選手とは体格差があるので、本当に同じ年齢かな?って思ったくらい(笑)。身長が2メートルくらいある選手も普通にいて、結構大変でした」。その状況下での4位は堂々たる成績に思えるが、石井くんの受け止め方は違う。

「もう少しできたんじゃないかと思います。これまで世界選手権に出場した先輩は優勝や入賞をしているのに、自分は4位と一歩届かなかった。それまで自分のポテンシャルだけで勝負していたけど、世界で戦うならポテンシャルだけではなく技術や知識も必要だなと思いました」

 帰国後は体幹トレーニングや体づくりを採り入れたり、日本代表チームのコーチ陣から受けた教えを参考にしたり、世界を意識しながら練習メニューをブラッシュアップした。

家族への恩返しのためにも実現させたいロサンゼルス五輪出場

友人たちとの何気ない会話が心和む時となる【撮影:南しずか】
友人たちとの何気ない会話が心和む時となる【撮影:南しずか】

 今年4月、陸上の強豪校でもある専修大学松戸高等学校に入学した。インターハイ出場はもちろん、箱根駅伝で活躍する選手を数多く輩出。顧問の山崎昌聡先生は部員の自主性を伸ばす指導に定評があり、部内にはのびのび明るい雰囲気に溢れる。

「目標となる先輩が多いです。自分より速く走る同級生もいるし、高校生でグンと記録を伸ばす人もいるので、負けないように頑張りたいと思います。先生や先輩もすごく優しいので、縦のつながりもある部活。いい刺激を受けています」

 今年から本格的に近代五種にも挑戦。陸上競技部での活動に加え、週3日は千葉県内の温水プールで水泳の練習に励み、週末は近代五種元日本代表監督・才藤浩さんの元でフェンシングを学ぶ。もちろん勉強も疎かにはできず、「隙間時間を上手く使おうと電車で移動中に勉強してます」。なかなかタフな毎日を送る中、そっと疲れを癒してくれるのは友達と笑いを共有する時間だったり、母が時折作ってくれるサーターアンダギーの優しい甘さだったりする。

 努力が実を結び、5月には近代五種のU17日本代表に選ばれた。今後は代表合宿を経て、7月にエジプト・アラブ共和国が舞台となる世界選手権での優勝を目指す。「近代五種の世界選手権では表彰台に乗りたいし、近代3種はアジア選手権があるので優勝したいですね」と力強く目標を語る。

 こうして競技に専念できるのも、家族や周りのサポートがあってこそ。「結構感謝しています」と照れくさそうに笑いながら、言葉を続けた。

「毎日朝5時に起きて、6時には家を出る。それでもお弁当を作ってくれたり、夜遅く帰った後に洗濯もしてくれたり。フェンシングのレッスン代や交通費も出してもらっているし、家族にはみんなに尽くしてもらっているなと思います。悪いことはできないなって思うし、怒られても言い返せません(笑)」

 今、考える最高の恩返しは、2028年ロサンゼルス五輪に出場し、金メダルを獲ることだ。競技をとことん極める道を歩み続けたいと思うと同時に、将来は弁護士や建築士のような職業に就いてみたいという想いもある。夢は大きく広がるが、まずは7月の世界選手権に全集中。5年後のロサンゼルスに向けて、確かな一歩を踏み出したい。

【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
下記より応募フォームにアクセスし、注意事項をご確認の上、ご応募ください。皆様のご応募をお待ちしております。

■南しずか / Shizuka Minami

1979年、東京生まれ。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材をはじめ、大リーグなど主にプロスポーツイベントを撮影する。主なクライアントは、共同通信社、Sports Graphic Number、週刊ゴルフダイジェストなど。公式サイト:https://www.minamishizuka.com

南カメラマンがレンズで捉えた未来のオリンピアンの姿

(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)

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