新体操で育まれた“仲良し4姉妹”の絆 つくばで10年以上歩み、迎えた人生の交差点【#青春のアザーカット】
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
そんな学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野の第一線で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。コロナ禍で試合や大会がなくなっても、一番大切なのは練習を積み重ねた、いつもと変わらない毎日。その何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)
17頁目 Diana新体操クラブ 野村芽衣さん(大1)、荒井理桜子(りさこ)さん(高3)、草間美優さん(高2)
まるで年子の姉妹のようだ。互いの顔を見合わせながら、時にクスクス、時にコロコロ、心から楽しそうに笑う。ほんの数か月前まで、ここにアメリカ留学へ旅立った高橋想乃さんが加わる“仲良し4姉妹”だった。
4人を引き合わせたのは、新体操元日本代表の藤野朱美さんが主宰するDiana新体操クラブ。2006年から茨城県つくば市を中心に活動を続ける。野村さんが入会したのは2008年。当時はまだ4歳だった。その1か月後に荒井さんが入り、高橋さん、草間さんと続いた。“仲良し4姉妹”が誕生して10年以上。野村さんが「弟とよりも長く一緒にいます」と笑うほど、たくさんの時間と思い出を共有してきた。
小学生の頃に行った合宿ではハプニング続出。寝坊したり、洗濯物を干したまま置いて帰ったり、「もう何時間でも話せるくらい」(荒井)というほど笑い話は尽きない。引率した藤野さんは「泊まりで行くと必ず何か事件が起きたので、私も髪の毛が逆立っちゃうんじゃないかって思いましたよ」と懐かしそうに笑う。
元日本代表・藤野コーチに師事「ここまで成長して本当にビックリ。感無量です」
13メートル四方のフロアマットの上で、巧みに手具を操りながら、音楽に合わせて踊る新体操。長さ6メートル以上あるリボンを絡ませることなく華麗に操ったり、空中に投げ上げた2本のクラブをキャッチしたりジャグリングしたり、丸いボールやフープの曲線を生かしながらしなやかに踊ったり。個人戦では1分30秒、団体戦では2分30秒の音楽が奏でる世界観を、頭の先から手足の先まで全身をダイナミックかつ繊細に使いながら表現する。
観る者を魅了する演技が完成するまでには、日々の練習は欠かせない。「家にいるより体育館にいる方が長いかも(笑)」という荒井さんの言葉通り、ほぼ毎日体育館で練習に励む。一日でも空くと、わずかな感覚にズレが生じてしまう。練習では、世界選手権にも出場した藤野さんの指導を仰ぎながら、自分の長所を伸ばし、足りない部分を補う。音楽に合わせて演技をする練習はマンツーマン。真剣な眼差しで演技を見届けた藤野さんから、手具を投げる時の指先の使い方、体を回転させるタイミング、背筋の伸びや手足の角度など、的確なアドバイスが送られる。
藤野さんが大切にするのは「コミュニケーション」だ。「一方通行ではダメで、彼女たちが何に困っているのかを聞き、それを私が見た感想と良くなるための提案をする。コーチと選手は相互作用が大切。私のエネルギーばかり強かったら彼女たちが潰れてしまうし、その逆でも良いものは生まれないので」と話す。コミュニケーションを積み重ね、互いに高め合った結果、中学・高校で関東大会に出場した野村さんは大学でも新体操部に入り、荒井さんと草間さんは茨城県を代表して国体に出場。高橋さんは中学生の時に全国大会に出場した。「ここまで成長して本当にビックリ。感無量です」と優しく微笑みながら愛弟子たちを見つめる。
辛い時に支えとなった4人の絆と第2の母の存在
食事や睡眠と同じように、もはや生活の一部となった新体操だが、野村さん、荒井さん、草間さんの3人はそれぞれ1度だけ「辞めたい」と思ったことがあるという。
野村「中学生になった時に1回だけ辞めたいと思いました。練習の回数や時間が増えたことがきつくて『なんでこんなにやってるんだろう?』って」
荒井「私は中学2年から3年にかけての時期に1度だけ。中2の時に関東大会に出させていただいて、中3でも出場を目指していたんですけど『出られなかったらどうしよう……』と思ったら、どんどん気持ちが下がってしまい、精神的に辛くなった時です」
草間「中学1年生の時、練習で先生に怒られたのに、すぐに謝りに行けなくて。自分で長引かせたんですけど、体育館に行きづらくなってしまい、辞めたくなったことがあります」
辞めてしまおうと思った時、その気持ちをとどまらせたのが、“仲良し4姉妹”の存在であり、藤野さんとの対話だった。
草間「年上の3人がいつも側にいてくれたから、背中を追いかけて頑張ろうと思えたし、辛い時も支えてくれたので乗り越えられました」
荒井「同い年の想乃ちゃんと行動することが多かったので、一緒に頑張ろうと思えました。ずっと4人でやってこられたことが大きかったと思います」
野村「4人で一緒に頑張れたことは大きかったと思います。もう一つ、朱美先生がちゃんと向き合って話をしてくれたおかげです。先生は私の思いにも耳を傾けながら会話をしてくれるので、自分の気持ちが整理されて、やっぱり頑張ろうという気持ちになりました」
草間「私も先生が1対1でちゃんと向き合ってくださったおかげで、自分の思いを言葉で伝えるのが苦手だったんですけど、一つステップアップできたと思います」
野村「先生には新体操の技術だけではなくて、新体操から離れた後のことも考えて、どう物事に取り組んだらいいのかであったり、感謝の気持ちや礼儀、素直さも教えていただきました。性格の面でもダメなところはダメだと言ってくれて、良くなるまで親以上に向き合ってくれますし、私たちの意見も聞いてくれる。だから、先生との信頼関係が築けたんだと思います」
荒井「第2の母?みたいな存在だよね。礼儀や挨拶は先生から教わりました」
野村・草間「そうそう!」
大学進学、アメリカ留学…2022年に迎えた旅立ちの時
コロナ禍で新体操の練習ができず、直接会うことができなかった時期も、オンラインで励まし合いながら乗り切った“仲良し4姉妹”。久しぶりに練習が再開された時には、「四角いフロアをいっぱいに使って演技することはすごく特別なことだったんだと思いました」(野村)、「決まった日、決まった時間に体育館で練習ができる有り難みを感じました」(草間)、「みんなで集まって一緒に練習できるって本当に楽しいし、みんなでいられるっていいなと思いました」(荒井)と感謝の気持ちを分かち合い、以前にも増して新体操と真剣に向き合い、取り組んだ。
野村さんが高校最後の年となった2021年。それまで一緒に成長してきた集大成として、荒井さんと草間さんとの3人で関東大会出場を目指した。留学準備のため一足先に選手生活にピリオドを打っていた高橋さんは、小中学生のコーチとしてクラブに携わりながら3人に声援を送ったが、残念ながら目標には届かず。4人一緒の日々は終わりを迎えた。
2022年、4人はそれぞれの未来に向かって歩み始めた。4月から大学生となった野村さんは親元を離れて上京し、高橋さんは7月に渡米。荒井さんは高校最後の大会となる国体で団体主将の大役を任され、同じく国体に出場した草間さんは高校最後の年に向けて成長のヒントを手に入れた。
取材の日、野村さんは久しぶりにDianaの練習に参加したというが、今でもずっと参加しているかのように、スッとその風景に溶け込んだ。3人が仲良く話す様子を眺めながら、藤野さんが微笑む。
「芽衣ちゃんは何があっても動じず、理桜子ちゃんは頭が切れる。想乃ちゃんはリーダーシップがあって、美優ちゃんは3人に付いていく感じ。4人がちょうどいいバランスでいたから、長く続けてこられたんでしょうね。彼女たちが頑張ってきてくれたから、私もやり甲斐がありました。ここまで成長してくれて、生徒さんというより人生の同志という感じ。彼女たちから教えてもらったことは本当にたくさんありますから」
この先、4人がそれぞれ目指す方向は違っても、新体操がという縁でつながる原点は変わらない。
【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
下記より応募フォームにアクセスし、注意事項をご確認の上、ご応募ください。
皆様のご応募をお待ちしております。
■南しずか / Shizuka Minami
1979年、東京生まれ。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材をはじめ、大リーグなど主にプロスポーツイベントを撮影する。主なクライアントは、共同通信社、Sports Graphic Number、週刊ゴルフダイジェストなど。公式サイト:https://www.minamishizuka.com
南カメラマンが捉えた新体操“姉妹”のオンとオフ
撮影協力:Pictures Studio赤坂
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)