出会ったのは「運命」 伝統の武道・なぎなたで繋がる女子中学生2人の友情【#青春のアザーカット】
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
そんな学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野の第一線で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。コロナ禍で試合や大会がなくなっても、一番大切なのは練習を積み重ねた、いつもと変わらない毎日。その何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)
13頁目 長岡市なぎなた協会 高野凜々子さん、茂野煌花(おうか)さん
スッと伸びた背筋で袴を着こなす姿は、まさに颯爽の一言。毎週木曜日、新潟・長岡市市民体育館の第二武道場には、初心者からベテランまで幅広い層の女性なぎなた剣士たちが集う。
「正面に礼! お互いに礼!」
講師を務める倉金友里さんの気迫あふれる号令が武道場に響きわたると、剣士たちは皆、およそ2メートルのなぎなたを構えて、演技の練習を始める。
「八相に構えて!」「面!」「脛(すね)!」
熟練の剣士たちが自分の身長を優に超えるなぎなたを巧みに操る姿は、ハツラツとして美しい。そんな先輩たちに少しでも近づこうと、真剣な眼差しで倉金さんの手本を見つめ、同じように再現しようとする初々しい2人。中学2年の高野凜々子さんと茂野煌花さんだ。
乃木坂46の主演映画「あさひなぐ」を観て、「すごく格好いい競技だと思いました」という高野さんが、長岡市なぎなた協会が開催する初心者教室に母と一緒に参加したのが2021年11月のこと。実際に手にしたなぎなたは想像よりもずっと長く、操作しづらいものだったが、武道場に漂う凛とした空気感が心地よく、一気に競技に魅せられた。
「一緒になぎなたやらない?」
高野さんが真っ先に声を掛けたのが、茂野さんだった。2人は同じ学校に通ったことはないが、知り合ったのは「運命です(笑)」と高野さんが言うほどの大親友。互いに目を見合わせて笑う様子は、周囲まで和やかな気持ちにさせる。
出会ったきっかけはバレエ、通う学校やスタジオが違えど意気投合
2人が仲良くなったのは小学4年の頃。共通の習い事でもあったバレエを通じてのことだった。別々のバレエスタジオに通っていたため、長らく見たことはあっても話をしたことはなかった。だが、ある日、一緒に遊ぶチャンスが訪れると驚くほどに意気投合。そこから一緒にバレエに励み、一緒に楽しい思い出を積み重ねた。
会えばバレエの話をしたり、互いの学校の話をしたり、お菓子作りをしたり。どれだけ長い時間があっても十分ということはない。
高野「おうちゃんがいろいろ企画してくれるんです。お菓子は何を作ったっけ?」
茂野「結構いろいろ作ったよね。タピオカとか……」
高野「でも、それ温めただけだよ(笑)」
茂野「そうそう(笑)。屋台で売っているようなフルーツ飴も作ったよね」
高野「あれは難しかったね」
茂野「リンゴとかイチゴとか。飴のトロトロ具合が難しくて」
「美味しかった?」と聞かれると、弾けるような笑顔で「はい!」と元気に声を合わせる。
コロナ禍の影響で小学6年時の行事は軒並み中止「結構落ち込みました」
気の合う友達と一緒に過ごす時間が、とても貴重なものだと気付いたのは2年前。新型コロナウイルスが世界中で猛威を奮い、学校にも習い事にも行けない日が続いた。当時、小学6年だった2人は楽しみにしていた県外への修学旅行が中止になり、バレエの発表会も開催延期。しばらくは2人で遊ぶこともできず、高野さんは「気持ちの面では結構落ち込んでしまいました」と振り返る。
学校で授業を受けたり、友達と楽しく会話をしたり、大好きなバレエを踊ったり。日々の楽しみを奪われてしまった寂しさを知るからこそ、久しぶりに会えた時は「本当に嬉しかったです。いっぱい話をしました!」と声を揃える。
中学生になり、高野さんはバレエを続けるため、活動時間の短い文化部に入部。茂野さんは陸上部に入り、部活に専念するためにバレエを卒業した。100メートルや200メートルといった短距離が専門。「陸上部の練習は結構、疲れます」と苦笑いするが、バレエとはひと味違う充実感もある。
バレエという共通項がなくなっても、2人の友情が消えることはない。ただ、一緒に楽しめる“何か”があれば、今よりもっと楽しい時間が過ごせるかもしれない。「また同じ習い事をしたいね」と話していたこともあり、一緒になぎなたを始めることにした。
共通項が「バレエ」から「なぎなた」へ 難しさ以上に感じる楽しさ
西洋文化を代表するバレエから、日本古来の武道でもあるなぎなたへ。全く違う世界に飛び込んだように思えるが、相通じる点は多い。背筋の通った立ち姿、丹田や体幹を意識した動き、しなやかながらキレのある所作。どちらも様式美を重んじるだけに、何よりも基礎と細部がカギを握る。
高野「思ったより難しいし、一つ一つの細かな動きが重要なんです。映画では(出演者が)結構スムーズにやっていたから、もうちょっと簡単なのかと思っていたけれど、ちょっと甘かったです」
茂野「楽しいけれど、やっぱり難しいです。一つの動きの中にも注意するべきところがたくさんあって、何か一つに気を取られてしまうと、他のことを忘れてしまったり……」
そう言うと顔を見合わせて苦笑いする2人だが、バレエや陸上とは違った、なぎなたならではの味わいも感じている。
高野「なぎなたを上段から振り下ろす時に、なんだかモヤッとした気持ちがスパッと切れる感じがします。気分転換というか、気分が晴れる感じがします」
茂野「私も同じような気持ちがします。でも、毎週練習に来る一番の理由は楽しいから。陸上とはまったく動きが違って、そこがまた面白いです」
高野「(倉金)先生みたいに一つ一つの技をきれいに決められるようになりたいです。すごくカッコいいので」
茂野「カッコいいよね! 私はまだ大会に出たことがないので、早く試合ができるくらいのレベルになりたいと思います」
念願叶った2人一緒の習い事。嬉しいことを一緒に喜び、大変なことを一緒に乗り越えてくれる友達がいることほど、心強いことはない。
将来の夢について聞かれると「人と関わることが好きだから、小学校や幼稚園の先生になりたいです」と高野さん。「私はなりたいものが3つあって。広告で家の間取りを見るのが好きだから建築士。それと医療関係に興味があるので看護師と医者。ドラマの影響もありますけど(笑)」と茂野さんは好奇心旺盛だ。
10年後の未来に、それぞれがどんな道を歩んでいるかは、この先のお楽しみ。ただ、一つだけ確かなことがあるとすれば、10年の時が流れても2人は互いを“親友”と呼び合っていることだろう。
【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
下記より応募フォームにアクセスし、注意事項をご確認の上、ご応募ください。
皆様のご応募をお待ちしております。
■南しずか / Shizuka Minami
1979年、東京生まれ。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材をはじめ、大リーグなど主にプロスポーツイベントを撮影する。主なクライアントは、共同通信社、Sports Graphic Number、週刊ゴルフダイジェストなど。公式サイト:https://www.minamishizuka.com
南カメラマンがレンズで捉えた袴姿の2人の友情
「撮影協力:Pictures Studio赤坂」
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)