花巻東サッカー部が躍進 柱谷哲二TA、大谷翔平ら育てた野球部監督の「情熱」に感服
強化体制が整った背景にある野球部の存在
準決勝後は、多くの選手が悔し涙を流していた。延長戦までスコアは互角。思っていたよりも勝てるチャンスはあった。だからこそ、悔しさは大きい。力不足だから仕方がないと思っていたら、殻は破れない。しかし、もっと何かできたのでは……と感じたならば、成長につながる。清水監督が「ああいうものに人は心を打たれ、何か教えてあげたいと思うもの。それは、上手くても下手でも誰でもできる」と評価したのは、対人戦で立ち向かい始めたDF船山の頑張りだった。
成長のきっかけは、いろいろなところにある。経験豊富な柱谷TAの存在も、その一つだ。
船山は、柱谷TAの助言を受けてFWからDFにコンバートされた選手。「怒ると怖いんですけど、普段の練習では丁寧に教えていただいているし、聞きに行くとすごく親切に教えてくれます」と感謝を示した。柱谷TAは、まだワールドカップに出場したことがなかった日本代表で主将を務め、ボランチやセンターバックとして戦うのみならず、チーム全体を束ねていた闘将だ。花巻東では基礎技術にこだわって成長を促しているという。現役引退後は、指導者として活躍。清水監督は、柱谷TAが母校の国士館大学でコーチを務めた時の教え子にあたる。
ところで、この強化体制が整ってきた背景には、実は野球部の存在がある。野球部の佐々木洋監督が、母校である国士舘大学の大沢英雄理事長にサッカー部強化について相談したのが、きっかけだったからだ。白羽の矢が立った柱谷TAは当初、断ることも考えていたというが、佐々木監督と会って「彼の人柄や決意。素晴らしい人間性を持っていて、彼となら仕事をしても良いと思った。誠実で、すごく情熱がある。心を動かされる」と要請受諾に至った。
最初は土が流されて石がむき出しになってしまうグラウンドを自分たちで整備することから始めたが、強化へのひたむきな姿勢が実り、昨年秋には人工芝グラウンドが完成。野球部の佐々木監督が環境改善の必要性に理解を示し、強烈に後押しをしたという。柱谷TAは「普通は(費用をかけるなら)野球じゃないですか。サッカーも強くしたいという、彼の情熱。誠実にやって、人を動かしてくれて、今に至っている」と感謝した。
話を聞いていても、心底認めるものがあるのだと感じる。だからこそ、対抗意識ではなく、サッカー部には野球部から学ぼうとする姿勢がある。柱谷TAは、報道陣に囲まれた取材の終わりに「野球部を見ていると、素晴らしいからね。凄いから! 野球部に少しでも近づけるように頑張ります」と話した。野球部の練習を見る機会もあるという清水監督も「サッカー部の生徒には、サッカー選手を目指してほしいし、社会でどこに行っても必要とされる人間になってほしい。野球部には、それがある」と一つの見本としていることを隠さなかった。