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「苦しい思いに蓋をしないで」 大山加奈が画面を越え、高校生に寄り添った“夢授業”

涙ながらに伝えた言葉「みんなにこれ以上、私と同じ思いをしてほしくない」

 大山さんは、少し言葉を詰まらせた。

「私はこういう経験はしたことないので、特別なアドバイスをしてあげられるかというと、してあげられないのが正直な気持ち。でも、練習が再開し、焦って頑張りすぎると、怪我につながると思う。それが今、本当に心配。みんながバレーボールできてうれしい、頑張りたいと思ってくれる前向きな気持ちは本当にうれしい。だけど、怪我をしてしまうと、大好きなバレーボールができなくなってしまう。まずは自分の体をしっかりと観察し、見てあげる。足が張ってるなと思ったら、絶対に無理をしないこと。

 今までは練習できていなかったのに、急にバレーボールの動きになると、体の負担が大きい。だから、一つ一つ確認しながらやってもらいたい。私も状況はみんなと違うけど、怪我をしてバレーボールができない期間が長かった。やっぱり焦る。周りはどんどん上手くなるし、ポジションを失っていく。それで焦って完全に治らないまま復帰して、また怪我をして結局引退することになった。みんなにこれ以上、同じ思いをしてもらいたくないので。頑張りすぎないこと、焦らないことを大切にしてほしいです」

 現役時代は打ち込むスパイクが強烈なあまり、右腕を振り抜く際に支える腰の痛みとの闘いだった大山さん。08年北京五輪は腰痛で出場を逃して手術し、1年半後に復帰した。しかし、気持ちの焦りが一因になり、26歳の若さでコートを去ることになった。

 この2か月、高校生は十分な運動機会がなかった。コートを走り回れることは楽しい。しかし、ライバル校はどれだけ練習しているかも分からない。焦るあまりに気持ちが先走れば、高校生活ばかりじゃなく、残りのバレー人生に影響が出ることもある。自身の体験をもとに訴えた大山さんの目には、涙が浮かんでいた。画面越しであっても伝わる思いを高校生もまっすぐに受け止めた。

 濃密に過ごした1時間。参加者からは「大山さんの話を聞き、もっとコミュニケーションを大切にして周りから信用される選手になりたいと思った」「大会が最終目標だけど、今は筋力をつけたくて走り込み、トレーニングをやっている。コロナの前よりも体を作りたいと思った」の声が上がり、コミュニケーション、目標設定など大山さんの言葉がそれぞれ学びになった様子だった。

 大山さんも最後に「明日へのエール」として、心を込めたメッセージを送った。

「今、皆さんが前向きにやるべきことをやろうとする姿が見られてうれしいと同時に、本当はなかなかモチベーションが上がらなかったり、悔しかったりという思いを抱えていると思う。その気持ちは無理に蓋をしてほしくない。もちろん、頑張ろうって前を向こうとすることは大事なんだけど、本当の苦しい気持ち、つらい気持ちに蓋をしてしまうと、あとで爆発して苦しくなる。

 だから、今は正直な気持ちに向き合ってもらいたい。自分はまだ元気だし、バレーボールもできているし、恵まれていると思うこともあるだろうし、つらい思い、大変な思いをしている方がたくさんいるから、弱音なんて吐けないという気持ちもあると思うけど、そんなにいい子になろうとしなくてもいいんじゃないかな。だって、みんなの目標がなくなってしまったわけだから。

 それは本当につらいこと。だから、自分の心に正直になってもらいたい。それが前に進むために絶対に必要で大切なことなので。一人で抱え込まず、周りの人に話をしてもらいたい。みんながこうやって本気で歩んできた日々はたとえ大会がなく、終わってしまっても絶対に後々みんなに返ってくる。いつか、絶対に『あの時があったらから今の自分がいる』と思える日が来ます。

 私もそうだったから。怪我をして、苦しくて苦しくて、もう無理という思いもしたけど、『ああ、怪我して良かった。あの経験が良かった』と今は思っているから。まだ受け入れられないと思うけど、その日が絶対来るということを胸のどこかに置いておいてほしい。いつか皆さんの笑顔に直接会える日を楽しみにしている。その日まで、みんなでパワーを充電しておきましょう」

 無理することはない。頑張りすぎず、焦らないで一歩ずつ、歩めばいい。最後に画面上に残っていたのは、大山さんと高校生の笑顔だった。

■オンラインエール授業 「インハイ.tv」と全国高体連がインターハイ全30競技の部活生に向けた「明日へのエールプロジェクト」の一環。アスリート、指導者らが高校生の「いまとこれから」をオンラインで話し合う。今後は元サッカー女子日本代表監督・佐々木則夫さん、バドミントン・福島由紀、廣田彩花、ソフトボール・山田恵里、ハンドボール・宮崎大輔、元テニス杉山愛さん、元体操・塚原直也さんらも登場する。授業は「インハイ.tv」で全国生配信される。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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