「苦しい思いに蓋をしないで」 大山加奈が画面を越え、高校生に寄り添った“夢授業”
夏を失った高校生にとって、夢のような1時間だった。女子バレーボールのアテネ五輪代表・大山加奈さんが4日、「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開する「オンラインエール授業」に登場。インターハイが中止となった全国のバレー部の部員ら32人に対し、「頑張りすぎず、焦らないで」と今後へ向けたメッセージを送った。
「オンラインエール授業」に女子バレー元日本代表の大山さんが登場
夏を失った高校生にとって、夢のような1時間だった。女子バレーボールのアテネ五輪代表・大山加奈さんが4日、「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開する「オンラインエール授業」に登場。インターハイが中止となった全国のバレー部の部員ら32人に対し、「頑張りすぎず、焦らないで」と今後へ向けたメッセージを送った。
画面を越え、高校生一人一人の心に寄り添った。大山さんが登場した「オンラインエール授業」はインターハイ実施30競技の部活に励む高校生をトップ選手らが激励し、「いまとこれから」を話し合おうという企画。第1回の村田諒太、第2回の川口能活さん、那須大亮さんに続き、第3回の講師として登場したのが、現役時代に「パワフル・カナ」の愛称で親しまれた大山さんだった。
「今日は参加ありがとうございます。実は始まる前から(画面上で)皆さんを見ていて、笑顔がたくさん見られて本当にほっとしたし、嬉しい。今、皆さんの気持ちを考えると胸が痛くて、どんな言葉をかけてあげればいいんだろうと戸惑うこともあるけど、みんなの笑顔を見て私も力になれることがあると思いました。心を込めてお話しするので、一緒に充実した時間にしましょう」
こんな挨拶とともに始まった授業。こだわったのは生徒との対話だった。冒頭で司会者から自身の高校時代を振り返る質問を受けたが、大山さんは「その前にみんなのことを聞いてみていいですか?」と切り出し、授業と部活が再開しているかを確認した。
その上で「今の率直な気持ちを聞かせてもらえますか?」と1人の生徒を指名。「練習の成果を発揮することがなくなり、すごくショックでした。今は学校が再開して、みんなと会えて元気になれました」と心境を聞き出し、参加者の笑顔を引き出した。
そして、振り返ったのは成徳学園(現下北沢成徳)で過ごした高校時代の思い出。今の高校生と同じように、練習がない日は女子高生らしく、プリクラを撮ったり、カラオケに行ったり、ファストフード店でおしゃべりに熱中したり。ただ、目標は明確だった。「バレーで日本一になること、信頼されるエースになること」とともに、3年生になると「全国3冠を獲ること」が加わった。
実際に、3年生で3冠の目標を達成したが、それまでの道のりには挫折があったという。特に、印象深いのは1年夏のインターハイ。小・中ともに日本一となり、いきなりエースに抜擢された。しかし、のちに代表で一時代を築く同級生・栗原恵を擁する三田尻女子(現誠英)に準々決勝で負けた。ただ、結果以上にショックだったのは「最後の最後にトスが上がってこなかったこと」だ。
「3年生のセッターの選手は同じ1年生のライトの選手に託し続けたんです。エースって大事な場面でトスが上がってくるポジションだけど、私は認められてなかった。振り返ってみると、ライトの選手はセッターの選手とずっと自主練習をやっていたんです。
当時の私はコミュニケーションを取ることが得意じゃなく、黙々と一人でやることだけやればいいというタイプ。みんなから信頼されるエースになるには仲間とコミュニケーションを取り、プレー以外でも信頼を得なきゃいけないと気づかされた経験です」
高校時代からスター選手として知られた大山さんの挫折。体験を伴ったコミュニケーションの大切さに高校生も深く頷いた。
意外な体験は、こればかりではなかった。「もう一つ、コミュニケーションから得た話をしてもいいですか?」と披露した。
3年生で主将に就任したものの、「仲間に厳しいことをいうのが苦手なタイプ」だった。嫌われたらどうしよう、空気を悪くしたらどうしよう。そんな考えで主将としてやるべきことができなかった。そして、当時は3月に行われ、新チームで迎えた春高バレーの都大会で負けた。第2代表で出場権を掴んだものの、日本一を目指しているチームが東京で負けた事実に、ショックを受けた。
「私がキャプテンだから、負けたんじゃないか」。前の主将はビシビシと仲間を鼓舞し、引っ張れる理想のリーダーだった。勝手に自分と比較し、「これでは春高も勝てないんじゃないか」と落ち込んだ。別の試合があった翌日も引きずり、控え室の教室で一人泣いていた。そんな主将を救ってくれたのが、同級生として苦楽をともにして、のちに代表でもプレーする荒木絵里香だった。
「友達が落ち込んで泣いていたら、どうする? 『どうしたの? 次頑張ろう』が普通じゃない?」と大山さん。しかし――。